「伝説のディーラー」こと藤巻健史氏は、モルガン銀行時代の同僚、小塩隆士・現一橋大学経済研究所教授の勉強会で年金の話を聞き、こんな提案をする。

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 目から鱗(うろこ)だったのは、半分、雑談的になってきたときに発言された以下の話である。「年金は年金保険と言うけれど、おかしいですよね。保険とは、火事とか地震とかの事件が起きた時だけに支給されるもの。ところが年金だけは65歳になると事件でもないのに全員がもらえるのですよ」

 そうしたら、ある方から、「昔は65歳まで生き延びること自体が事件だったからですよ。長生きすると生活費が枯渇して大変ですよね。だから、『65歳まで生きてしまった』という事件に対して保険がおりたのです」と言われたそうだ。

 年金制度がスタートした時は人口が増えていたから、全員をハッピーにさせうるのが年金制度だったという。それが少子化時代の到来で、年金もゼロサムゲーム(一方が勝てば他方が負け、双方の得点の合計が常にゼロになるゲーム)になってしまった。スリム化という大改革をしない限り、高齢者世代が勝って次世代が負けるのだから、世代間格差が一層激しくなってしまうそうだ。

 そこで考えた。国が保障するのは80歳や90歳からにするのはどうだろう。まさに「長生きした時の生活費を確保する」という保険本来の目的に戻すのだ。全員が保険金をもらえるわけではないから、掛け金は大幅に安くなるはずだ。

 その年齢になるまでが不安ならば、自己責任で民間の保険を掛けておく。その保険には政府が税金を使って補助をする。これはどうだろう? 今まで掛けすぎた保険料は一時金で返金し、新たな保険の保険料に充ててもらう。大胆すぎますか? 暴論ですか? 私は、世代間格差が極大化して制度が崩壊するのを座して待つよりはいいと思っている。

週刊朝日  2013年11月29日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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