名経営者として知られる京セラ・日本航空名誉会長の稲盛和夫氏。さまざまな問題が現存する現在社会には、「足るを知る」ことが必要だと話す。
――世界は今、資源・エネルギー問題や環境問題を抱えておりますが、今後、人類はどのような道を進むべきだとお考えですか?
現在の資本主義社会では、経済成長をしなければ、社会は発展しないと見なされています。経済成長が至上命題となると、大量生産、大量消費、大量廃棄が繰り返されます。物を使い捨て、贅沢な生活をしてくれればしてくれるほど、経済成長する仕組みになっているのです。このやり方を続ければ、せっかく人類が築きあげてきたすばらしい現代文明が、そう遠くないうちに崩壊してしまうのではないか、と危惧しています。
京セラでは40年ほど前、第1次オイルショックを契機に再生エネルギーとして太陽電池を開発してきました。最近では、メガソーラー発電などもずいぶん普及してきましたが、それでも全体に占める割合は一部にしか過ぎません。再生エネルギーの普及は人類の課題ですが、それだけでエネルギー問題が解決できるわけではありません。同時に、限りある資源やエネルギーの消費を抑制するように努力しなくてはいけません。
――これまでのような生活ではいけないのでしょうか?
いずれ、地球の人口は100億人を超えると言われています。100億人全員が、現在の先進諸国の人たちが暮らしているような消費生活を望めば、いろいろなものが不足していく。エネルギーにも食糧にも限度があります。どう考えても、今のような生活を永遠に続けることは不可能でしょう。
――では、どうすればよいでしょうか?
まず我々、先進諸国に住む人間は「足るを知る」ことが必要です。
――東洋的な教えですね?
はい。「足るを知る」とは、「もうそんなに強欲にならなくてもよいのではないか。欲望にも節度が要るのではありませんか」という、古来から東洋にある教えです。自然界を見ると、植物は草食動物に食べられ、草食動物は肉食動物に食べられ、肉食動物の糞(ふん)や屍(しかばね)が土の栄養となるという食物連鎖があります。
ライオンは満腹な時は獲物をとりません。動物が欲望のおもむくままにえさを食べ尽くせば、食物連鎖が途切れてしまいます。この命の連鎖を、自然界は自ら壊しませんが、それは本能的に足るを知っているからこそ、安定と調和が保たれているのです。これから必要なのは、このような「足るを知る」生き方だと考えています。
――今の人類は、そうではありませんね?
近代社会において人類は、さまざまな科学技術を発展させてきましたが、やがて傲慢(ごうまん)となり、欲望を肥大化させ、豊かな生活を送るために自然を利用すればよいと思い、徐々に自然を破壊するようになりました。その欲望は、やがて地球全体の環境を脅かすほどに肥大してしまったのです。
※週刊朝日 2013年11月22日号