中国・北京市で10月28日、天安門前に車両が突入して炎上し、車に乗っていた3人が死亡、多くの観光客が死傷した事件で、中国当局はウイグル族の反政府グループによるテロだと発表した。事件に関与したとして、30日までにウイグル族の容疑者5人も拘束された。テロの背景に何があるのか。中国の少数民族問題に詳しい、楊海英(ヤンハイイン)静岡大学教授に聞いた。

「これは中国にとって、ニューヨークのワールドトレードセンターで起こった9.11テロと同じ意味合いを持つものだと思います」

 楊教授は中国の内モンゴル出身のモンゴル人。内モンゴルで起きた中国当局による大虐殺を調査してまとめた著書『墓標なき草原』で、2010年に司馬遼太郎賞を受賞している。

「これまでも中国ではウイグルやチベット、モンゴル人など少数民族の暴動がありました。でも、辺境で暴れているイメージだった。それが新疆(しんきょう)ウイグル自治区の区都ウルムチではなく、首都北京、しかも毛沢東の肖像がある天安門で起こった。これからは漢民族の住むところも無関係ではないですよという、一種の宣言だと思います」

 背景には、ウイグル自治区での中国政府の抑圧があると、楊教授は言う。

「自治区とはいいながら、ウイグルには自治権が与えられていません。最初は与えると言っていたのに、独自の国家を持たせてもらえなかった。ウイグル自治区に定着しているイスラム教の宗教活動も抑圧されています。そして経済的な搾取もある。新疆では天然ガスや石油が出るのですが、中国の内地に運ばれ、ウイグル人の利益になっていません」

 こうした抑圧と搾取でたまった不満の爆発が、今回の事件ではないかというのだ。今回、ウイグル自治区の中でも東寄りの中国に近い地域にあるシルクロードの要所、トルファンの人たちが関与していたとみられることに、楊教授は驚く。

「トルファンは平たくいえば親中国的、アフガニスタンやロシアなどに近い西側の地域よりも、中国と平和共存しようという地域なんです。私は今年3月末にもトルファンを訪れましたが、緊張に包まれていた西側地域と違って穏やかで、『トルファンはやっぱり平和ですよ』と現地の人たちは言っていたのです。そんな人たちが立ち上がらなければならなかったというのは、忍耐の限界を超えたのではないでしょうか」

 今回、テロの実行犯となり車内で死亡した3人は、ウイグル族の夫婦とその母親と発表されているが、そこに楊教授は注目する。

「女性が含まれている、しかも家族であるということは、非常に重い。イスラム原理主義者が欧米に挑むのとは異なり、相当追いつめられた人々の絶望感からの行動だと想像できます」

週刊朝日 2013年11月15日号