小さい、早い、勃たない……。男の性の悩みは数多あるが、世界中で日本人にしかない症状があるという。「膣内射精障害」――。つまり、セックスの相手である女性の膣内で射精ができない、というものだ。

 一体、どういうことなのか。『男を維持する「精子力」』の著者があり、男性不妊のスペシャリストである岡田弘・獨協医科大学越谷病院教授に聞いた。

「近年、日本では爆発的に増えています。しかし、『膣内射精障害』という英語の学術用語はありません。海外の学会で話しても、全然信じてくれないのです。なんだそれ、という感じで。日本以外の国で『射精障害』といったら、だいたい早漏のことを指しますからね」

 欧米はもちろん、韓国や中国でも大きな問題は早漏で、「膣内射精障害」というものはないのだという。

 この「膣内射精障害」の患者は、年齢的には30歳から35歳が最も多い。そして、職業には、ある傾向が見られるようなのだ。

「これまで診てきたなかでは、IT関連がとても多い。システムエンジニアですね。この人たちが患者の半分以上を占めていました。次に多いのは、外資系証券トレーダーで、全体の14%でした。3番目は10%を占める教師です。休みがはっきりしていて病院に行きやすい教師は、高血圧や糖尿病でも10%くらいを占めますから、あまり考えなくてよいでしょう」

 合わせて7割近くにもなるシステムエンジニアと外資系証券トレーダーの共通点は、仕事でパソコン画面を長時間見ていること。

「一日に12~16時間くらい、下手すると寝ているとき以外はほとんどパソコン画面を見ている。中には、変なことを言いだす人もいた。『味があまりしなくなってきた』と言うんです」

 平たいパソコン画面の文字情報という視覚情報ばかりを優先させているので、味覚や嗅覚など他の感覚が鈍ってきたということなのだ。

 

 こうした患者さんたちに、岡田教授は、「土いじり」を勧めている。家庭菜園やガーデニングを、本格的にではなく真似事でもすると、本来の感覚を取り戻し、「膣内射精障害」を脱出できることが多いという。

 これよりも深刻なのが、生身の女性との性交が気持ちよく感じない、最初から「膣内射精障害」の人だ。

 いちばん多い原因は、マスターベーションのやり方だ。畳にうつぶせになってペニスに体重をかけたり、机の角にこすりつけたりするような刺激でないと射精できないという人は、それ以下の刺激では射精できない。膣内は、まったくちがう感覚なので、女性とのセックスが気持ちよく思えなくなってしまうのだという。

 感覚の物差しは個人的なもの。それだけに、長年の癖で身についた「誤った快感」を矯正するのは、かなり困難のようだ。

「女性の膣の刺激に近いTENGA(オナニーホール)を使って治療を試みたことがあります。みんなTENGAの中では射精できるようになった。ところが、パートナーの膣内で射精できるようになったのは、20人中たった1人。TENGA好きになってしまうだけで、なかなか治らないのです。こうしたケースで子どもを望むカップルには、人工授精を勧めています」(岡田教授)

週刊朝日  2013年10月11日号