独自の理論にもとづき、続々とベストセラーを出す慶応大学放射線科講師の近藤誠医師。近藤医師は、がんには「本物のがん」と「がんもどき」があるという独自の「がんもどき理論」を展開しているが、これに対し小説『白い巨塔』の主人公・財前五郎のモデルとなったとされる日本外科界の権威、大阪大学第二外科元教授の神前(こうさき)五郎医師が反論。撤回を求める「果たし状」を送り、ついに二人の“直接対決”が実現した。その様子をリポートする。

 神前医師は言う。

「あなたの書いた『医師に殺されない47の心得』にはちょっと表現が過激というところもあるが、趣旨的にはだいたい賛成できることが多い。でもね、がんもどきに関しては、だめ。賛成できない」

 がんもどきはがんもどきのままであり「発見できる大きさになったときには、その性質(成長速度など)は変わらない」と近藤医師は言う。

 これに対し、神前医師は、がんもどきは本物のがんになる可能性がある、と異を唱える。がんの成長速度は一定ではなく、速くなることがあるという見解だ。

 そして、近藤医師が著書『がん放置療法のすすめ』で紹介しているスキルス胃がんの症例について、矛盾を指摘する。

「その記述を読むと、初診時に一部は漿膜(しょうまく)を通り抜けて腹膜に転移し、一部は粘膜にとどまっているとある。あなたが言うように、がんが同じ性質で、同じ成長速度だとしたら、なぜ一部は千里を走り、一部は1里しか走らないことになるのか。どこか抜け道でもあるとでも?」

 近藤医師は答える。

「抜け道なんてない。同じがんであれば、成長速度は一定で、がんという固まりを本体と外側で見ると、外側のほうがこぼれやすい。成長速度の違いではなく、要は、本体から離れやすいかどうか」

「私には腑(ふ)に落ちない。じゃあ、成長速度が一定という証拠持っていますか?」(神前医師)

「それを言うなら、成長速度が違う証拠を出すべきでしょう」(近藤医師)

 このような議論が延々と続く。時折、近藤医師が持参した根拠となる論文を提示するが、多くは「これは例外」と神前医師は一蹴(いっしゅう)する。高齢のためか、神前医師は低音の声が聞き取りにくく、「なに? もう一回言ってくれませんか」と尋ねる場面が何度もあったが、それでも、聞いた後は瞬時に反論し、思考の速さは94歳とは思えない。

週刊朝日  2013年9月20日号