2020年の東京五輪が決定した。だが、安倍政権の“五輪ファシズム”のおかげで、対応が後手になっている福島第一原発の汚染水漏れ問題が断末魔だ。地下水から高濃度のストロンチウムが検出されるなど事態は泥沼化。出口の見えないこの問題は国を滅ぼしかねない。

 ブエノスアイレスで開かれたIOC総会に乗り込み、「私が安全を保証する」と言い切って五輪招致に見事、成功した安倍晋三首相。自民党幹部がこう語る。

「首相はこの1ヶ月間、ずっと五輪招致でハイテンションになっていました。昨年末、政権に返り咲いた頃からどんな攻勢をIOCにかければ、招致できるか、徹底的に調べさせ、水面下でずっと関係者へネゴを重ねていた。今回は絶対にいけるので、恥はかかないと確信し、高円宮妃久子様らを動員し、自ら演説すると決断したのです」

 だが、唯一の誤算は、海外メディアの厳しい報道だった。

「欧米のメディアは連日、シリア問題に次ぐニュースとして『フクシマ・クライシス』と題し、汚染水漏れの詳細を報じ続けた。汚染水漏れを『五輪招致に影響するような大問題じゃない』とタカをくくっていた官邸は慌てふためいた」(政府関係者)

 慌てた安倍首相は9月3日、「政府一丸となって解決にあたる」と国費470億円を投じ、汚染水漏れへの対策を行うことを発表。内訳は凍土方式の遮水壁建設に320億円、現在トラブルで試運転が止まっている放射性物質除去装置(ALPS)より高性能の装置を開発する費用として150億円を充てるという。

 だが、「少し遅きに失した」(脇雅史自民党参院幹事長)と身内にもいわれる始末。
そして目玉対策である「凍土方式の遮水壁」の実効性についても、大いなる疑問が生じた。事故当時、首相補佐官として原発事故対応に当たった民主党の馬淵澄夫・元国土交通大臣はこう指摘する。

「凍土方式は完成まで2年間もかかる上に、工法自体にも問題がある。私は補佐官時代、原子炉建屋を遮蔽するプロジェクトチームの責任者として、4種類の地下遮水壁の工法を検討しました。その結果、『凍土方式』ではなく、チェルノブイリで実績がある、材質が粘土の『鉛直バリア方式』を選定しました。『凍土方式は汚染範囲が大きい場合は困難』という理由で採用しなかった」

 元経産官僚の古賀茂明氏もこう言う。

「凍土方式で汚染水を止められる、と言う専門家は一人もいないでしょう。海外のメディアも取材し、そのことをすでに知っているので、安倍政権の対応を評価していないのです」

 米紙ウォールストリート・ジャーナル、英BBCなどは専門家らにインタビューし、「技術的にも政治的にも困難」と報じている。

 さらに海外メディアで問題視されたのは、政府や東京電力の隠蔽体質だ。野党が要請した「衆院経済産業委員会の閉会中審査」も、五輪招致への悪影響を懸念した自民党が早々に先送りを決め、開催のメドはいまだ立っていない。この対応には自民党国会議員からも疑問の声が続々、上がっている。

「国会閉会中でも審査を開いていれば、『与野党の知恵を結集し、公明正大に汚染水問題に立ち向かう』と世界にアピールできたのに……。逆に安倍政権の隠蔽体質を海外に発信することになった」

 そして今回の470億円の国費投入という首相の決断が、「東電を破綻処理する」という“パンドラの箱”を開けかねない事態を招いている。

 自民党の河野太郎副幹事長はこう指摘する。

「事故処理費は本来、東電が負担すべきもので、政府が汚染水対策に国費投入をするのだったら、その費用を東電に請求するのかどうかをはっきりさせる必要があります。当面の肩代わりで将来返済を東電に求めるものなのか。それとも、東電を破綻処理し、責任を取らせた上で、国が事故収束に責任を持つのか、この際、ハッキリさせるべきです」

週刊朝日  2013年9月20日号