
総合電機産業テコットの島耕作(65)が、社長から会長に就任した。作者の弘兼憲史さん(65)と隅修三・東京海上ホールディングス会長(66)は対談で会社の人事についてこう語る。
弘兼:最近、「人事」が話題になっていますが、大きな企業のトップとして、隅君独自の、人事についての要諦(ようてい)みたいなものはありますか? 秘訣(ひけつ)とか?
隅:普通の言葉ですけど、適材適所でしょうかね。
弘兼:でも、本人の希望と会社の配置が食い違った時はどうするんですか。
隅:人事というのは、そういうものの塊ですから(笑)。
弘兼:本人の希望が正しいとは限らないですからね。
隅:ええ。当社では長年、バランスがいい人間を重用する風潮があったんですが、私はどっちかというと、とんがった人間、ある分野に関して非常に優れた能力を持っている人間を重用してきました。というのは、経験的に思うのですが、グローバルに戦う時には、そういう人間がいないと勝てないからです。平均点が素晴らしい人も必要ですが、そんな人ばかりの集団では弱くなる。
弘兼:島耕作のテコットもそうですが、これからは海外での業務に対応できる人材が必要になりますね。
隅:ええ、実は東京海上でも、今それが一番大きな課題です。英語がしゃべれるというのは当たり前ですが、グローバルな視野でものを見られる、そして意見を言える。そういう人材を育てるための訓練や研修を行っているのですが、まだまだ。
弘兼:グローバルな視野というのは、一言で言うと?
隅:世界の政治、経済、文化が、今どういうふうに動いているか立体的に見られること。そしてそれに対する自分の見解と意見を持って発言できること。海外では考え方が違う人間がいても受け入れてくれますが、自分の意見がない人間は、相手にされませんから。
弘兼:便利な社会では、与えられすぎて自分で思考する力がなくなりますからね。
隅:インターネットで検索して書いてあることが自分の意見だと思ってしまう風潮もありますね。そうではなくて、本当の自分の意見や考えを持つこと。また自分の目で本や漫画を読み、行間からイメージする力を持つこと。このイメージ力というのが、世界の競争を勝ち抜く原点になります。
※週刊朝日 2013年9月13日号