血液中のブドウ糖(血糖)を利用する「インスリン」というホルモンが不足したり、働きが悪くなったりすることで発症する糖尿病。診断は、血糖値とHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)という両方の値を血液検査で測定するが、HbA1cは、血液中の糖分と赤血球のヘモグロビンが結合してできる物質で、その血中濃度(%)が、過去1~2カ月の血糖値の平均を反映している。今年5月、日本糖尿病学会は新しい糖尿病治療のガイドラインを発表し、5段階だった血糖コントロール目標を3段階に集約。それにより患者の状態に合わせた治療目標が設定できるようになり、血糖値の「見える化」などの取り組みも進む。
東京都の主婦、原田奈美江さん(仮名・64歳)は5年前から2型糖尿病と診断され、薬で治療していた。昨年からは薬だけで効果が上がらず、インスリンの投与が必要になった。
原田さんはこう語る。「食事療法や運動療法が重要だと言われても、なかなか長続きしませんでした。血糖値が下がると、どうしてもいい加減になってしまうんです」。
症状が悪化して、インスリンが必要になったとき、原田さんが病院で勧められたのが血糖自己測定だった。原田さんは、腕などに小さな針を刺して、5~10秒で自分の血糖値がわかる測定器を薬局で購入した。そして「糖尿病手帳」に、一日の時間の経過ごとに、食事内容、運動、インスリンの量、自分で測った血糖値を記入していった。
「2日間、手帳をつけました。間食にスイカを食べると血糖値が一気に上がり、運動するとすぐに下がるという具合で、食事や運動の大切さを実感しました」と原田さんは言う。
原田さんに血糖自己測定を勧めた、永寿総合病院糖尿病臨床研究センターのセンター長、渥美義仁医師はこう話す。
「糖尿病治療では、薬物療法を行うにしても食事療法や運動療法は必須です。それを継続してもらうために、血糖値を『見える化』して、患者さんのモチベーションを高めようと、手帳をつけてもらうことにしました」
前述のとおり、HbA1cは1~2カ月間の平均血糖値を反映する。そのため、この数値では、いつのどの食事がよくなかったのか、どんな運動がよかったのかがわからない。そこで、食前・食後に血糖値を測り、食事・運動の記録と合わせてグラフで見るのだ。
原田さんが取り組んだのは、手書きで記入するタイプの糖尿病手帳による「見える化」だが、渥美医師はこうしたプロセスをIT機器で行い、病院や薬局でそのデータを活用できるシステムづくりをめざしている。
たとえば、渥美医師が監修してできたウェブコンテンツに「e-ダイエット」がある(http://www.club-dm.jp/ediet/)。食事療法を行う人向けに作ったもので、和食でも洋食でも自分が食べたいメニューを選んでいくと、カロリー数がシミュレーションできる。
また、歩くスピードで運動強度も測れる「運動量計付き歩数計」と血糖測定器のデータとを連動させ、運動量と血糖値の関係を示すシステムの活用や、患者がスマートフォンで毎日の食事、運動、血糖値を目で把握できる「スマートe‐SMBG」の開発にも携わる。
「院内では、食事療法や運動療法、合併症の予防法などをサポートする専門スタッフにより、徹底したチーム医療を実施しています。それと同時に、ITを活用したサポート体制を整備し、患者さん自身が生活改善に取り組めるようにすることが大切だと考えています」(渥美医師)
※週刊朝日 2013年9月6日号