製薬会社がどの医療機関にどれだけの資金を提供したかを明らかにする情報公開が始まった。製薬会社が新薬を開発するためには、医療機関や医師の協力が必要だ。そのため、製薬会社は大学医学部や研究室などに資金提供をしている。一方で、医師も資金がなければ研究できない。つまり、製薬会社と医師は、新薬開発と資金提供という「持ちつ持たれつ」の関係で成り立っている。
情報公開は「日本製薬工業協会」(以下、製薬協)が2011年に策定した「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」に従って実施されるのだが、透明性ガイドラインには、公開範囲について、次の項目が掲げられている。
A:研究費開発費等 B:学術研究助成費 C:原稿執筆料等 D:情報提供関連費 E:その他の費用
Cには医師による講演料が含まれ、接待費などはEに該当する。これらの項目を初めて公開する12年度分の情報は、各社の「決算終了後公開」と透明性ガイドラインにある。本来ならば、決算発表シーズンの5月には公開されるはずだったが、5月に本誌が主な会員会社に公開時期を取材したところ、「夏ごろ」「7~8月」「未定」というあいまいな回答で、日付を明示した社はなかった。
それが7月17日、大手で初めて、ファイザーが研究費開発費等116億円、原稿執筆料等11億円などの情報をホームページで公開した。動向をうかがっていた各社も続く見通しだ。
そもそもなぜ、製薬会社はこの時期に自社の情報を公開することにしたのか? 透明性ガイドライン策定の理由について、製薬協の仲谷博明専務理事はこう説明する。
「具体的な事例があったからガイドラインを作ったわけではなく、これは時代の趨勢(すうせい)なんです。医療の安全・安心のために、よりいっそう透明性を高めていく流れにあり、製薬会社と医師との関係に癒着があると疑われてはならないのです」
資金提供の健全性を保つために率先して情報公開しようというのが、製薬協の狙いのようだ。しかし、この動きに医師側の団体は反発した。今年2月、日本医師会、日本医学会など3団体は、製薬協を交えて協議会を開き、そこで、ガイドラインの一項目「原稿執筆料等」の公開時期の延期を求める要望書を提出する事態となった。日本医師会の三上裕司常任理事にその経緯を聞いた。
「12年4月下旬、宮城県医師会から、日本医師会事務局に問い合わせが入ったんですが、その時点では、ことの重大さに気づいていませんでした」
日本医師会が主催する医師向けのセミナーについて、スポンサーの製薬会社が「医師の講演料をホームページで公開する」と宮城県医師会に伝えてきたという。
「セミナーは、特定の製薬会社の商品を説明するものではなく、疾患や治療法全般を説明するものですから、その講演料を公開するとしたら、医師個人の収入を1円単位で公開するということになってしまいます」(三上常任理事)
ガイドラインによると公開されるBの学術研究助成費は、大学や研究室単位での総額となっていて個人名までは出ない。しかし、策定された時点では、Cの原稿執筆料等は、医師個人の名前を出して「○件〇円」と1円単位で公開することになっていた。製薬会社の宣伝にかかわる原稿執筆料や講演料については、日本医師会も「おおいに情報公開すべきだ」という姿勢だが、特定の薬品をとりあげない一般論などの公平中立な説明にかかる原稿料などまで「すべて公開するのは反対」という。
※週刊朝日 2013年8月2日号