「私のところの支持者に、公明党から『よろしく頼みます』との電話がどんどんかかってきている。選挙区ごとに5千から1万、計10万票を公明党に回せって言うんだよねえ。あんまり無理を言わんでほしいよ」

 こうぼやくのは埼玉県内の自民党衆院議員だ。埼玉は3人区。自公候補の当選はすでに濃厚なのだが、4月に自民党本部が史上初となる選挙区推薦を公明党に出したものだから、さあ大変。公明党は推薦を印籠のように押し出し、ここぞとばかりに自民党支持層を食い破ろうとしているのだ。

「選挙に弱い1年生議員が圧力に負けて支援者名簿を渡してしまった。名簿は政治家の生命線。何があっても渡さないもんだけどね」(自民党県連幹部)

 2007年の参院選で議席を落とした公明党は奪還が最重要課題。「全国の選挙区で協力しているのだから」と自民党に圧力をかけ、推薦を勝ち取った。あまりに激しい食い込みぶりに、自民党候補の古川俊治参院議員(50)が6月、「(支持母体の)創価学会は嫌いですよ。はっきり言って」と会見でぶちまける騒ぎも。

 老練な政治家なら「自分の選挙に大して影響のない企業や団体を連れて歩いて、適当にお茶を濁しているよ」(県連幹部の一人)なんて芸当もできるのだが、「1選挙区2万票」といわれる公明票をちらつかされると、もろ手を挙げて降参してしまう議員もいるのだ。

 弁護士の矢倉克夫氏(38)を擁立する公明党は余裕綽々(しゃくしゃく)。陣営幹部らの口癖は「何事も信頼関係」。開票すれば市町村別の得票がモロわかりとあって、自民党衆院議員の“誠意”が本物であったかどうかすぐにわかる。地方議員もターゲットで、「まず15年に県議選があるでしょ。1人区なんてうちから票をもらってるんだから」(選対関係者)。

 すでに次期参院選も視野に入れており、「1回推薦したら『次も』となるのは当然。仮に与党に逆風が吹いていても『前回と同じく票を回せ』と言える」(公明党幹部)。

 全国での円満協力のために、いわばいけにえとされた自民党埼玉県連だが、恒例の安倍晋三総裁(58)の県内入りについても影響が出ているという。

「いつも大宮で街頭演説をやってもらって景気づけしているんだけど、今回本部からは全く打診がない。自民党の街宣車に安倍さんと公明党候補が一緒に乗って手を振るのかっていうナイーブな問題になるから、やけどを恐れて入ろうとしないんだろう」(県連幹部)

 党内からは「いっそのことうちが3位で通って、票を回したことにできればすべて丸く収まる」という嘆き節すら出ている状況だ。

週刊朝日  2013年7月26日号