国会閉会日に参院で問責決議が可決されたものの、高支持率をいまだ維持している安倍政権。発足から半年で、東京都議選の候補者すべてを当選させる「パーフェクトゲーム」を成し遂げ、鬼門の参院選でも「与党で過半数」は射程内だ。松原隆一郎・東大教授(社会経済学)と御厨貴・東大客員教授(政治学)に「国会通信簿」をつけてもらった。

*  *  *

御厨:この半年間、安倍政権は大成功です。経済を統治の対象にし、景気がよくなった感を醸し出し、みんな明るくなりましたね。

松原:私は経済だけで言えば日銀の金融緩和に反対の立場ですが、株式市場が雰囲気であるのと同様に、政治も雰囲気ですからね。二つがうまくかみ合った点は評価します。株が乱高下しているので政権も同じようになるのかと思いましたが、ダッシュが利いて、割と高止まりしています。

御厨:政治も株も投機的なところがあるんですよ。それが両方うまくいった。とにかくいまは安倍官邸の一人勝ちで、麻生太郎財務相(72)、菅義偉官房長官(64)、そして甘利明経済財政相(63)の周辺ですべて動かしています。

松原:菅さんが目立っていますよね。石破茂幹事長(56)より点数を稼いでいます。中国海軍の艦船が尖閣諸島沖で海上自衛隊の護衛艦に射撃管制用レーダーを照射した事件なんて、時が時なら戦争ですよ。世論を沸き上がらせないでいる。地味で実直な感じですが、自民党は実務ができるという印象を強くアピールしました。

御厨:第1次安倍政権を経験した人たちが、前は足の引っ張り合いで失敗したのだからそれはやめようとしている。官邸の中に、ある種の“暗黙知”的なものを作り上げて、成功しています。閣僚も不平不満を言ったりしない。民主党が同じく300議席取っていながら、内部対立でつぶれていったのと全く違います。現役が文句を言わないので、OBの古賀誠元幹事長(72)が「赤旗」で文句言っている。(笑い)

もう一点。この内閣はとにかく「参院選に勝つまで」を合言葉にしている。従来の内閣だったら参院選に行き着くところまでで、こけちゃっている。予想外に安倍(晋三)さん(58)は頑張った。僕はもうちょっと頑張らないと思っていたんだけど。(笑い)

松原:野党がひどいですから。そのせいで全部うまくいってるという印象です。

御厨:総合評価でA-(マイナス)ぐらいいくでしょう(編集部注・2007年7月の対談で、Aだった民主党以来の高評価)。自民党って地味なところでもきちんと頑張る人材がいる。みんな勉強していくんです。民主党は半年やっても、1年たっても勉強しなかったけど。(笑い)

松原:危機管理もうまい。復興庁の官僚によるツイッター暴言問題も速やかに処理しました。民主党ならここぞとばかりに官僚いじめを始めたと思うんです。

御厨:今回は短期採点です。参院選後どうなるかわからないから。今後マイナス面が出てきたときに、この内閣は乗り越えられない可能性がある。今は複雑なパズルのピースが全部はまっている状態ですが、突然そのピースが全部落ちちゃう可能性があります。金融については特にそれが言えます。

松原:日銀総裁に黒田東彦(はるひこ)氏(68)を選び、リフレ政策でいくと宣言。世界の投機家にショックを与えました。ただそのうちリーマン・ショックみたいなバブル崩壊が起きる可能性もあります。それまでに経済の実体が戻っているかどうか。

週刊朝日 2013年7月12日号