水も食糧もエネルギーもお金さえあれば、手に入る現代の日本。逆に近代化に伴い、多くの人々は自給自足で自分たちの生活を食いつなぐことはできなくなった。そんな現状について、早稲田大学国際教養学部の池田清彦教授は警鐘を鳴らす。

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 はっきり言って、サラリーマンとは自己家畜化した人々の謂(いい)である。徹底的に家畜化された動物は野に放たれたら自活できない。現代日本の大多数のサラリーマンもまあ似たようなものだけれども、本人たちは自分の食い扶持は自分で稼ぎ、自立した人間だと思っているのであろう。しかし、分業システムと貨幣経済が崩壊すれば、私自身も含めて、自ら食物を得る術をほとんど持たない現代人の多くは餓死する他はない。

 歴史が我々に教える教訓はどんなに強固に見えるシステムもいずれ崩壊するという事実である。自己家畜化は現代社会に対する高度の適応形態であるが故に、システムの大変化の際にはクラッシュを起こす可能性は高い。余命いくばくもない私が心配しても仕方がないが、最近気になるのは、自己家畜化には益々拍車がかかり、とどまるところを知らないことだ。

 がん検診や健康診断の強要なども自己家畜化の最たるものだが、多くの人は自身が家畜化しているとは露も思わず、自ら進んで家畜に成り下がっているようだ。国家に管理されて一年や二年長生きして、何が楽しいのかと思う。自己家畜化のもう一つの問題は、自助努力を放棄した人々を支えるためには膨大な税金がかかることだ。このままでは原発が大爆発しなくても日本が滅びるのは時間の問題かもしれないね。

週刊朝日 2012年11月9日号

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