大スクープが一転、世紀の“大誤報”に――。
〈今回の事態を招いたことに対し、読者の皆さまに深くお詫びいたします〉
米ハーバード大客員講師を名乗る森口尚史氏(48)が、世界初となるiPS細胞の臨床応用を行ったとする報道について、10月11日付朝刊の一面トップで報じた読売新聞は、13日付朝刊で、一連の記事は誤報だったと「おわび」と検証記事を掲載した。
iPS細胞を巡っては、京都大の山中伸弥教授(50)が8日にノーベル医学生理学賞を受賞したばかり。今後の臨床研究の進展に大きな期待が寄せられる中、読売の記事はまさに世界的スクープのはずだった。
が、記事掲載直後に当事者であるハーバード大が、森口氏が同大関連病院の研究者だったのは12年も前のことで、その後は関係がなく、大学や病院の倫理委員会は森口氏の臨床研究を承認していない――などとする声明を発表。騒動は日本にも飛び火し、読売が2010年5月に、森口氏との共同研究で、iPS細胞を使ってC型肝炎の効果的な治療法を見つけたと報じた東京医科歯科大が会見を開き、「そのような実験および研究が行われた事実はない」と全面否定したのだ。
森口氏は東京医科歯科大医学部を1993年に卒業し、看護師免許を取得。同大大学院で保健学修士となったが、医師免許は持っていない。経歴の一つである東京大の関係者が語る。
「彼は、東大先端科学技術研究センターにいたこともあります。ただ専門は医療経済で実験系ではなかった。言ってみれば事務屋に近い。それがiPSだなんて。読売の記事で彼の名前を見て、東大でやっていた研究とは全然違う分野の話なので奇異に感じました」
読売のインタビューで、自ら患者にiPS細胞を移植したと話した森口氏だが、“移植”したのは自分の経歴だったようだ。
※週刊朝日 2012年10月26日号