中山:私は高齢の患者が多いこともありますが、考え方が違っていて、たとえば大腸がんのステージ4という5年生存率が20%くらいの状況の人に対しては、治らないということを最初に伝えます。そして治療をなにもしないと半年、薬を使うと3年と少し、という見通しを伝えるようにしています。そのうえでどのような選択をするのか、患者さんと決めていきますね。
患者の年齢が違うのが大きいですね。多くの患者さんは冷静で、取り乱すことはありません。私との対面では気丈に振る舞っていらっしゃいますが、「ステージ4です」と告げたあとの説明は全然頭に入っていないのではないかと思います。だからまたべつの外来で話すようにしているのですが、後で看護師に聞くと待合室で泣いていたという話も聞きます。
大塚:救いたかった患者さんがたくさんいますよね、思い返すと。それがそのときにできる最善だったんですけれどね。でも、あの人にはこう語りかけてあげればとか……思いますね。
中山:やはり後悔はたくさんあります。ご家族も同席いただいてじっくり話すべきだったのに時間が取れなかったとか。確かに現実的にはできなかった。でもほかに何かやり方があったのではないか……と。
大塚:考え続けるのが大事だと思っています。考えることから逃げてしまうのは簡単ですから。
中山:でも逆に、すべてのケースを真正面から受け止めたら、がんの治療医は続かないと思うんですよ。精神的に無理だと思います。
大塚:私も、治療医をやめて緩和ケア医になろうと思ったことが何度もあります。
中山:本当ですか。
大塚:きつかった。とくにオプジーボが出る前は戦える薬がなかったですからね。
中山:本当に、ものすごくつらいですよね。たった3カ月の皮膚科でしたが、患者さんが亡くなるたびに、上司と飲みに行っていました。つらくて。
大塚:手ごたえなし。あの状況を見ているとき、緩和ケア医になろうと思いました。幸い新薬が出て、希望が生まれた。そうした希望をあきらめてはいけないと思うんです。