歯周病の原因は口の中の細菌。だとすれば菌を殺す働きのある抗生剤などの薬を飲めば一発で治りそうな気もします。毎日の歯磨きが面倒な人には薬はとっても魅力的ですが、実際はどうなのでしょうか? 『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか? 聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中の歯周病専門医、若林健史歯科医師に疑問をぶつけてみました。
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歯周病を抗生剤で治そうという考え方は昔からありました。そして治療の現場でも実際に使われています。読者の皆さんの中にも歯ぐきが腫れたり、痛んだりしたときに歯科医院に駆けこみ、薬を処方された経験のある人は多いと思います。その薬はほとんどが抗生剤です。
また、歯周病の中には数は少ないですが、短期間のうちに重症化し、20代でも歯がボロボロになってしまうようなタイプ(侵襲性歯周炎などと呼ばれる)があります。この歯周病の主な原因菌とされる「A.a菌(アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス)」にはマクロライド系抗生剤の「アジスロマイシン」という薬がよく効きます。
歯ぐきの腫れや痛みの原因は、患部に歯周病菌を中心とした病原菌が大量に発生し、そこに白血球が集まって炎症を起こしているためです。抗生剤は細菌を殺す作用のある薬ですから、服用すると炎症がやわらぎ、症状が落ち着きます。
しかし、抗生剤はあくまでも、「対症療法」にすぎません。わかりやすくいえば「腫れと痛みで駆けこんできた患者さんに対する応急処置に使うもの」です。
「よかった、薬ですぐに治ったじゃないか」
と歯医者に行くのをやめてしまう人がいますが、それはやってはいけません。そうすると間をおかずに、歯ぐきの腫れと痛みが再発します。
歯科医院からは薬を出されたときに、必ず「近日中に次の受診をしてください」と言われ、予約もとっているはずです。それは応急処置後の本治療をおこなうためです。
歯周病の一番の原因は細菌ですが、細菌のエサになるのは歯や歯肉に付着したプラーク(歯垢)です。誤解している人が多いのですが、プラークは食べかすではなく、食べかすに集まってきたり、そこで増殖したりして固まりになる「細菌の集合体」です。ヌルヌルした黄白色の膜を作るため、バイオフィルムともいわれます。バスタブや台所の流し台にくっついているヌメヌメの物体を思い出してください。細菌の種類は違いますが、あれと全く同じものです。