新型コロナウイルスの不安を高めたのは、2%という致死率の高さだ。それが、実際の感染者数が公式発表より多いとなると、致死率はもっと低くなる。死者数の確認に比べて、軽症や無症状の感染者数を正確に把握することは難しいためだ。中国特有の事情もある。吉田教授は言う。

「武漢市では患者が病院に殺到して、混乱状態になっています。病院は重症の患者から診察していると思われますので、軽症の感染者数は把握できないでしょう。また、重症化した感染者に対しても、水分補給や点滴を投与するなど、適切な治療がされなかったために亡くなった人もいるかもしれません」

 正しい致死率は、これから詳細な情報が出ることで明らかになるだろう。人間に感染するコロナウイルスでは、致死率約10%のSARS、12年に確認されて韓国などで感染が広がった致死率約34%のMERS(中東呼吸器症候群)が知られている。現時点の新型コロナウイルスの致死率2%は、感染者が現在の10倍であれば、致死率は0.2%程度になる。季節性のインフルエンザの致死率が約0.1%なので、同じ程度だ。「年数が経過すれば『普通のカゼ』と同等になる可能性もある」(吉田教授)という。

 ただ、新型コロナウイルスは、糖尿病や呼吸器に持病のある人、特に高齢者で重症化する傾向が報告されている。日本でも、高齢者が集まる福祉施設などで集団感染が起きないようにする対策が必要だ。

 では、今年7~9月に開催される東京オリンピック・パラリンピックはどうなるのか。五輪期間は、世界200以上の国と地域から約1万5000人の選手が集まる。国際大会でも参加者と観客者数が群を抜いて多く、数千人、数万人規模の人が1カ所に集まる「マスギャザリング」で集団感染が起きる危険性が指摘されている。

 過去の例もある。16年のリオ大会はジカ熱、14年のソチ冬期大会は麻疹(はしか)が流行した。昨年のラグビーワールドカップ日本大会でも、観戦のために来日したオーストラリアの50代男性が侵襲性髄膜炎菌感染症を発症している。日本では症例が少ない感染症だが、世界では毎年30万人の患者が発生し、3万人の死亡例がある。

次のページ
東京オリンピックで拡大が懸念される感染症