■「それならわかりました」とはっきり言った

 今から20年近く前、某週刊誌で表紙を担当していた。毎回、有名人を撮り下ろすのだが、被写体の衣装は編集部で選ぶことにしていた。依頼したスタイリストと被写体のイメージなどを話し、衣装の方向性を決める。そうして選んだ衣装を並べ、スタジオで被写体を待つ。被写体が到着したら「こちらの一押しはこれですけど、これも似合うと思いますよ」。そんな会話をして、衣装を決定し撮影。そんな流れだった。

 3年ほど表紙を担当していたが、唯一、違う流れになった人がいた。鈴木京香さんだった。

 鈴木さんは衣装を一枚ずつじっくり見て、「どんな狙いなのでしょうか」と聞いてきた。そんな人は、誰もいなかったから少し慌てた。何とか説明した。鈴木さんはじっと聞いて、「それならわかりました」と答えた。こちらの勧める衣装の他に1枚気になる衣装があると言い、両方とも試着し、こちらの勧めた衣装を選んだ。そんな記憶がある。

 30代だったなったばかりの鈴木さんの「それならわかりました」という声を、はっきり覚えている。きっぱりした人だなあ、と思った。納得したら淡々と仕事をする人でもあった。だから「グランメゾン東京」における「おばさん」も、きっと鈴木さんが納得してのものだろう。そう想像するのだ。

 さて、私が見ていない5話。まだ、お仕事ドラマのままでいてくれるだろうか。木村さんが主人公の場合、それがお仕事ドラマでも相手役と「友達以上、恋人未満」になってしまうパターンが多い。松たか子さんと共演した「HERO」が最高峰だろうか。もちろんそれはそれで悪くないのだけど、そうなるとどうしても木村さんが主導権を握ることになる。

 だけど「グランメゾン東京」は、木村さんと鈴木さんが五分五分、時に鈴木さんが主導権を握っている感じが最大の魅力。なので早見倫子さん、尾花夏樹さん、どうぞオーナーシェフとスーシェフのままで仕事をしていってください。それでなくても、尾花さんの周りは敵だらけ。パリで尾花さんを陥れた犯人も、どうやら近くにいるらしい。

 グランメゾン東京の三ツ星獲得に向けて、恋をしている暇はないと思う。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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