──「正義」のために、今の生活水準をあきらめ、エネルギーを使わない「脱成長」に向かうべきということでしょうか。
成長をあきらめろ、中世社会のように質素に生きろと言いたいのではありません。
一つ参考になるのが、欧米の左派ポピュリズムが今まさに中身を議論している、グリーン・ニューディールです。それは、成長と持続可能性をどちらも擁護しながら、新しい社会をつくろうとする計画です。
具体的には、再生可能エネルギーの導入や、無償の公共交通機関への投資、エネルギー効率の高い公共住宅建設への財政出動。これらの新しい雇用創出で、石炭・石油産業の労働者たちの新しい仕事を補います。貧困層でも車を電気自動車に買い換えられるようにするためのローンを国が提供する、など。気候変動への取り組みを、新自由主義がつくり出した分断を乗り越える契機にしようとしています。
今のような生活スタイルは持続不可能であるということは認識しつつ、新自由主義とは異なる新しい社会をつくるアイデアが生まれています。それも、トップダウンではなく社会運動の側が積極的に提案して、政治家がそれに動かされていくという方向になっている。そうした下からの動きが、欧米では年々、活発になってきているのです。
──「下からの民主主義」は、まだ日本で根付いていないということでしょうか。また、左派ポピュリズムは世界の政治を席巻しているのに、なぜ、日本では広がらないのでしょうか。
複雑な制度を熟知している専門家やエリートたちが、トップダウンで制度を変えようとする傾向が、日本ではまだ根強いですね。しかし、現代のような、複雑な危機が同時多発的に起きている時代では、トップダウン型の政治は機能しません。
欧米の左派ポピュリズムといえば、前回の米国大統領選で大旋風を起こしたサンダースやコービンの活躍ばかりが注目されますが、よく観察すると、彼らを支えているのも、社会運動なのです。いや、むしろ、社会運動が先にあり、運動が政治家を動かしています。