実際、欧米の左派ポピュリズムが一番に取り組んでいる課題は、「反緊縮」ではなく、持続可能な社会をどのように構想するか、なのです。

 では、なぜ持続可能性がそれほどまで喫緊の課題になっているのか。それは、気候変動という危機が、これまでの予想以上に急速に深刻化し、人類の生存を脅かすほどになっているからにほかなりません。

 ところが、日本では左派のなかですら、まだ気候変動への懐疑説が横行しています。だから、海外の左派ポピュリズムの核心を見落とすのでしょう。

──日本に甚大な被害をもたらしている昨今のスーパー台風には、海水温度の上昇が関わっているとも言われていますが、気候変動については、科学の領域のように思えます。

 いえ、気候変動は社会そのものを含め、すべてを変えてしまうのです。たとえば、気温上昇を2度に抑えたとしても、海面上昇が進み、難民が2.8億人にまで増加するという予測があります。これに干ばつや熱波による農作物被害や飲み水不足が加わる。そうなれば、右派による排外主義がますます過激になり、社会そのものも変えてしまうでしょう。

 問題はもちろん左右の分断だけではありません。1%の超富裕層は、寒冷な高地のゲーテッド・コミュニティで今までどおりの生活を維持できるかもしれませんが、将来の世代、とりわけ、途上国の人々は自分たちが二酸化炭素を排出していないにもかかわらず、塗炭の苦しみを味わう。今話題のグレタ・トゥンベリたちが使う「気候正義」という言葉には、そういった含意があります。

 また、もっと身近に日本国内で言えば、台風の被害が東京では最小限に抑えられているけれど、他方で、インフラの老朽化した地方ほど被害は大きく、さらには高齢者たちに復旧の負担がのしかかります。ホームレスの人々が避難所に入れないという事件もありました。これらはすべて気候正義の問題です。

 しかも、こういった弱者への被害の移転が、将来的にはもっと大規模なスケールで起きることになる。それに対抗するためには、人権や平等という理念を守ることが必要なのです。

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