平地であれば重機を投入して土砂や木・石を撤去するところだが、箱根湯本~強羅間は片側が急斜面になっている山肌に軌道が延び、重機が入れない区間が多いという。観光資源である登山鉄道ならではの立地が復旧のいたずらになっているようだ。土砂などの撤去に手間がかかるだけでなく、橋梁の再設置と崩落した法(のり)面の補強工事に長期間を擁すると見込まれ、10月18日に箱根登山鉄道が発表した「台風19号の影響による運転状況について」によると、「復旧には長期間を要する」とのことだ。
箱根は10月下旬から紅葉のピークを迎え、例年なら多くの観光客が箱根登山鉄道を利用して訪れる。箱根登山鉄道は箱根湯本~強羅間について代替バスによる振り替え輸送を行うとしているが、3両編成の定員数約230人で輸送できる鉄道に対して、1台あたりの定員数が路線バスの場合は約70人と輸送力が大きく異なる。さらに、今回の代替バスの運行本数は列車のそれよりも少なく、道路状況によっては発車時刻が変わる場合もあるとのただし書きが添えられており、観光客数に大きな影響が出よう。
箱根湯本~強羅間の年内の復旧は難しいと見られており、箱根登山鉄道1社での復旧はとうてい成し遂げられないほどの状況だ。観光での利用客が多いが、住民にもかけがえのない鉄道で、日常生活で利用している人も多い。復旧には国の支援が求められよう。(文/平賀尉哲)
○平賀尉哲(ひらが・やすのり)/1964年、徳島県生まれ、三重県育ち。鉄道雑誌の編集部に勤務し、2008年にフリーランスの編集者、ライターとして独立。「週刊JR/私鉄 全駅・全車両基地」(朝日新聞出版)、大手私鉄を各社ごとに取り上げて前面展望映像のDVDと詳しい車両紹介、歴史などを記した「完全データDVDBOOK」シリーズ(メディアックス)の企画・編集・執筆に携わる。車両に乗って旅をしているだけで幸せになる「乗り鉄」派である。スキューバダイビングの経験も長く、インストラクターの一歩手前までのライセンスを所有する。