が、彼女の強さの恩恵を被っているのは、今のところ周囲ばかりだ。桜以外の模型グループ4人は希望の部署に配属され、菊夫君はパワハラ部長にノーと言えた。だが、桜は希望の土木部でなく人事部に配属になり、土木部担当役員に昇格した菊夫くんのパワハラ上司は、「俺の目の黒いうちは、お前を絶対とらない」と桜に宣言する。

 人事部の仕事にやりがいを見出す桜だが、社内評価は全然上がっていない。それどころか、損ばかりしている。そう見える。理不尽すぎる、と思ってしまう。

 ドラマだから、しかも波乱万丈大好きな遊川さんだから、わかりやすく「窮地」を描き、ヒロインを追い込んでいる。と、わかってはいる。でも、遠い昔の自分を思い出して、心が痛んでしまう。

 ああ、私ってば、入社してしばらく、下手すると10年くらい、思ったことを口にしてはいけないって知らなかったなー。桜みたいにピュアじゃなかったけど、思ったことを口にして損したことがあったなー。損した理由に気づくまでに時間かかったなー。バカだったなー。

 高畑さんの演技で、忘れていた感情を思い出す。

 桜は、会社に着ていく一張羅のスーツを寝押しする。その姿が切ない。菊夫くんのパワハラ上司から「(菊夫の)同期の姉ちゃん」呼ばわりされる。その言葉が痛い。

 桜は折に触れ、「私には夢があります」と語り出す。「故郷の島に橋をかけること」「一生信じ合える仲間をつくること」「その仲間とたくさんの人を幸せにする建物をつくること」。朗々と語る桜。高畑さんは歌がすごく上手いのも有名だが、そのあまりにもまっすぐな声に聞き入ってしまう。

 会社は台詞を言う場所ではなく、仕事をする場所だ。だから桜のように夢を語る人など、現実にいるはずがない。と、わかっているのに、白けない。それどころか、気づくと泣いている。年齢とともに涙腺が弱くなっていることは自覚の上だが、高畑さんの力量あってのことだと思う。

 1年ごとに進行する「同期のサクラ」。次回は2011年。公式ホームページを見ると、震災前日、3月10日から始まるようだ。桜の、そして高畑さんの2011年を見届けなくてはと思う。

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