大畑:キックの数は明らかに増えています。もちろん闇雲に蹴っているわけではなく、戦略を持って蹴っています。キックを使うというのは、相手選手の背後にボールを運ぶ、つまり「裏のスペースを使う」ということ。すばやく敵陣に入れますし、ボールがルーズになりやすいので、マイボールにして速いアタックもできます。
 空中高く蹴って敵とボールキャッチを競り合うための「コンテストキック」を蹴ることが多いですね。そこからトライへとつなげていく。空いている裏のスペースにボールを運ぶので、選手が活躍できるシーンが多くなって、可能性が広がるんですよ。
 ただ、ヘッドコーチがいまのジェイミー・ジョセフに変わった当初は、キックをすることに対して選手たちにアレルギーがあったのではないかと思います。日本は蹴るラグビーをしてこなかったので、蹴り方もわからないし、どうすればいいかもわからない。でも、このキックを多用する戦術が浸透してくると戦力は確実にアップします。引き出しが多くなりますから。選べるのなら、僕は今の日本のラグビーをやってみたいですね。

 大畑さんが語るように、対ロシア戦でもコンテストキックを顕著に多用する傾向があったのは事実だ。名選手もうらやむ戦術をものにして強化された日本チームだが、その前に立ちはだかるのが世界ランキング2位のアイルランドである。

 アイルランド代表は、アイルランド共和国と、イギリスの北アイルランドによる統一チーム。統率の取れたプレースタイル、選手の経験と実績の見事なバランス、そして魂あふれるスキのない動きと、すべてにおいて世界を代表するチームのひとつだ。昨年のシックス・ネーションズ(欧州6カ国対抗戦)では3度目のグランドスラム(全勝優勝)を達成、ワールドラグビーの18年最優秀チーム、コーチ、選手賞を総なめにした。

 アタックはセットプレー(ラインアウトやスクラムなど止まったところから始まるプレー)が安定しており、自陣ではコンパクトに、敵陣に入ると大きく展開と、自在に戦術を変えてくる。

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