しかし、実はコンプレックスが生じることで、子どもは「頑張ろう」と努力できる人間に成長できる、という説があるのです。
20代から60代までの働いている人を対象に、年収別にアンケートをとったデータでは、年収が高い人たちほど「コンプレックスが行動のための原動力になっている」と答え、低い人たちほど「そうは思わない」と答えたそうです。
人は、「他人」あるいは「自分の理想」と比較して劣っていると考えたときほど、その溝を埋めようと行動します。たとえば、肌がもともと綺麗な人は、そこまで石鹸(せっけん)にこだわりません。しかし、すぐに肌が荒れてしまう人は、いろいろな石鹸を調べ、試行錯誤して、どうにかして肌を綺麗にしようとするでしょう。
私の実家の静岡は、よく「のんびりやが多い」「穏やかな人が多い」「野心家が出ない」なんてことをいわれます。なぜ静岡の人がそんなふうに思われているのかというと、それは「静岡の気候が温暖だから」なのだそうです。
居心地がいい、つまり、安定していて「今のままでいい」と思っている人が多いので、あえて行動する必要がないのです。北海道に住んでいる人たちだったら、寒い冬にはそれに応じて寒さをしのぐための道具を買ったりセットしたり、暖かくするための対応が必要でしょう。雪かきをする必要もあります。
しかし、静岡では冬でも全く雪が降らないため、寒いからといってあまり動かなくてもいいのです。このように、なにかにおいて「極端」なところがあるほうが、人はそれを解決しようと努力せざるをえなくなるのです。
■コンプレックスがある子ほど、何とかしようと行動する
それは子どもの成長に関しても同様でしょう。もし、「自分は今くらいで十分だ」という気持ちだったら、現状維持に努めるだけです。対して、他人に対してコンプレックスがある子ほど、穴を埋めるために「なんとかしよう」と行動する気持ちが湧き出てきます。
そして、「努力したら結果が出た」という自信がつくほど、達成感を感じるほど、その後は行動する能力もアップし、将来がんばれる人間につながっていくでしょう。「やればできる」と思えるようになった人間は強いです。
親は、コンプレックスという「穴」をもった子どもに対し、どう解決するかではなく、どう接していくかが問題ではないかと思います。親が不安になるのもわかります。しかしそこで子どもに対して「大丈夫か」「もっとがんばれ」と強要してしまうと、子どもはプレッシャーを感じ、親の期待に添えないのではないかと逆に萎縮(いしゅく)して、挑戦しにくくなってしまいます。