8月も下旬にさしかかり、うだるような暑さも少し落ち着き始めた。夏の締めくくりに、身の毛もよだつ怪談話はいかがだろうか。AERA dot.では「真夏の都市伝説シリーズ」と題して、オカルト研究家の山口敏太郎氏に、かつて世間を賑わせた怖い話を綴ってもらった。今回は「トイレの花子さん」だ。
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日常生活において人間が最も無防備になる場所と言えば、トイレである。特に用をたしている時、人間は敵や魔物に抗うことは出来ない。しかも、昭和時代の“便所”は裸電球が仄暗く室内を照らし、きつい臭気が漂っていた。そんな悪環境は、子供たちの心にトイレに対する恐怖心を植えつけ、妖怪伝説を生み出すことになった。その代表的存在が「トイレの花子さん」である。
「トイレの花子さん」とは、学校の個室トイレに現れるとされた妖怪だ。見た目は普通の小学生くらいで、おかっぱ頭、赤いスカートに白いシャツという特徴が共通している。出会ってしまうとトイレの中に引きずり込まれてしまうと、当時の子どもたちに恐れられていた。
「トイレの花子さん」は、一方的に出現して人間を襲う妖怪ではない。人間が召喚する儀式によって招かれる妖怪だ。儀式のやり方は小学校によりバージョンが違うのだが、基本的には「●●階の女子トイレの奥から(或いは手前から)三番目のトイレを3回ノックして「花子さ~ん」と呼びかけると姿を現わす」と言われている。
これは明らかに人間側から儀式を通じて異界にアプローチしており、「コックリさん」「キューピッドさん」といった学校で女子たちが興じていた招霊術と同系列に位置していると思われる。「トイレの花子さん」はあくまで女子だけが接触できる妖怪なのだ。「トイレの花子さん」が男子トイレに出ず、ただひたすらに女子トイレに出続けたのも、女子学生という巫女が召喚した「トイレの神」であったからではないか。
また「トイレの花子さん」は紫姑神(しこしん)との関連性も指摘されている。紫姑神とは古代から中国で信仰されてきた厠の女神であり、正月の15日には紫姑神をおろし、農作物の成果や諸事の吉凶を占ったとされる。この紫姑神の信仰が日本に入り「厠神」「トイレの神さま」という信仰に変わった。この「トイレの神さま」という信仰心は、現代日本でもいまだに息づいている。トイレに花を飾ったり、清潔にすると金運がアップすると言うジンクスなどは明らかに「トイレの神さま」への信仰である。ひょっとしたらトイレットペーパーを三角折りにしたり、蝶々の形に折ったりするのも「トイレの女神」への献花かもしれない。