日米首脳が25日の会談で合意した米国産飼料用トウモロコシの大量輸入について、農業関係者から疑問の声が上がっている。
菅義偉官房長官は27日午前の会見で、安倍晋三首相が表明した大量輸入について「(日本国内で)供給が不足する可能性がある」と説明した。日本では、7月からガの幼虫である「ツマジロクサヨトウ」の発生が確認されていて、九州地方を中心に11県で被害が出ている。そのため、米国から年間輸入量の3カ月分にあたる275万トン程度が輸入される見込みだという。トランプ米大統領は日本の輸入額について「数億ドル(数百億円)」と述べている。
では、ツマジロクサヨトウの被害はどの程度なのか。275万トンを輸入するということで、すでに供給不足になっているのかと思いきや、農水省に確認したところ「現状で営農活動に影響は出ていません」(植物防疫課)と話す。発生が確認された地域では、大量発生を防ぐために防除や早期の刈り取りを促しているが、作物への影響はわずか。「現時点で被害量はまとめていません」(同)という。
ツマジロクサヨトウは、アフリカやインドなどで農作物に大きな被害を出した危険な害虫であることはたしかだ。ただ、熱帯・亜熱帯原産であるため寒さに弱く、「気温が10.9度を下回ると成長が止まります。最低気温が10度を下回る日が続く地域では、越冬は難しい」(同)という。
現在でも発生が確認されているのは西日本以外では茨城だけ。日本での飼料用トウモロコシの生産量(年間約450万トン)の半数以上を占める北海道では発生が確認されていない。
また、米国から輸入するのはトウモロコシの実だ。一方、日本で被害が出ているのは青刈りして葉や茎を発酵させるサイレージ用で、性質が異なる。鈴木宣弘・東京大教授(農業経済学)は、こう話す。
「同じデント種のトウモロコシでも牧草と同じように青刈りして繊維質を多く与えるのと、栄養価を高めるためにトウモロコシの実を与えるのは別のものです。家畜を育てるには2つをバランス良く与える必要があります」