

個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。今回は「セリフの覚え方」について。
* * *
「セリフ、どうやって覚えるんですか?」。よく聞かれる質問だ。主に俳優以外の職業の方から聞かれるが、たまに俳優仲間からも聞かれる。「一生懸命覚えます」と身も蓋もない答え方をいつもしてしまうが、確かにセリフの覚え方は俳優によって様々だし、「セリフを覚える作業さえなかったら俳優ってホントに愉しい職業だよね」なんて意見もある。
そもそも、ドラマや映画などの「映像」と、「舞台」ではセリフの覚え方というか、セリフを染み込ませる深度みたいなものが違う気がする(あくまで一般的です。ひとくちに映像、舞台といっても、映像にも様々あるし、舞台にも様々ある)。
敬愛する先輩俳優である風間杜夫さんから以前伺った話。風間さんがまだ若かった頃、映画の現場で勝新太郎さんと一緒になった。若く、それゆえのトンガリもあったという風間さんに、勝新さんはゆらりと近づき、こう聞いた。「お前は、セリフを覚えてるか」。ちなみにノミの心臓で一世を風靡した(←いつ?)僕が勝新さんにそんなこと聞かれたら、「覚えてます覚えてます、もちろん覚えてます、なんなら勝新さんのセリフも覚えてます、なんなら登場人物全員のセリフを覚えてます」と、震えあがりながら大嘘をついてしまいそうだが、若き風間さんは、大先輩である勝新さんの目を見てこう答えた。「いえ。覚えてません」。……ひゃひゃ~怖い。しかし勝新さんは、ニヤリと笑い風間さんに、「それでいい」と言ったそうだ。「セリフは撮影当日、現場で覚えればいい」と。
ここからは僕の想像だが、刻一刻と変わる現場の状況、空気を感じながら、順応しながら、そこで、その場でセリフを覚える、その方が生なセリフが吐ける、みたいな意味だったのかなと想像する。もちろん良い悪いの話ではない。勝新さんもこの時はそう仰ったとのことだが、作品によっては、あるいは場面によっては、違うアプローチだったかもしれない。