感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。
感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました!『ワインは毒か、薬か。』(朝日新聞出版)カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録しています。
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ときに、こうやって、EBMを実践していくとあることに気づくことがある。「要素還元主義」は案外危ない、という事実だ。では、「要素還元主義」とはなにか。
食品にはいろいろな栄養素が含まれている。栄養素の人体への影響はさまざまだ。たとえば、タカヂアスターゼの消化に対する効果とか。
しかし、ある食品や飲み物が体によいかどうか検証する時に、その飲食物に入っているひとつの構成要素だけに注目してしまうのは危うい。その要素があるのか、ないのかという「イエス・ノー・クエスチョン」である。イエスかノーしか選択肢がない、二元論だ。このような二元論で議論をしてしまうのが要素還元主義だ。
■要素がなければ病気になり、補充すれば治る
たとえば、ワインにはポリフェノールが入っているから健康によい、みたいなのが要素還元主義の一例だ。このような要素還元主義がうまくいくことも、なくはない。
ビタミンB1が足りないと脚気になる、とかビタミンCが足りないと壊血病になるといった古典的な例だ。昔、このような「要素がないと病気になる」という発見が次々となされていった時代がある。「要素」の有無が直接病気の発生と関係していたのだ。
そして、脚気の患者さんにビタミンB1を投与すれば脚気は治るし、壊血病の患者さんにビタミンCを投与すると壊血病は治る。要素がなければ病気になり、要素を補充すれば病気は治る。