吉川貴盛農相は、国有林の入札の際に再造林を同時に行うことを申し入れることで「確実に再造林される」と説明するが、野党は「『申し入れ』ではなく『義務』にすべきだ」と反発している。

 日本では戦後に植林された木が成長して、伐採量を増やす政策が進められている。一方で、皆伐や過度な間伐で木を伐りすぎたために山が荒れ、再造林に失敗した山も多い。林野庁の森林・林業白書によると、伐採された山の面積の約6~7割が、再造林されないままとなっている。

 一方で、林野庁に同情する声も聞こえてくる。別の林野庁関係者は、こう話す。

「林野庁にとって国有林事業は庁内のエリートコースで絶対に手放したくない。官邸からトップダウンで指令が来たが、基本の伐採期間を10年にしたり、5年後に法案の見直し条項を入れたりしたことで、法案に一定の制約を入れることができた。今後は、林野庁がどのように国有林を管理・運営していくかが問われる」

 日本の国土面積の7割は森林で、そのうち3割の758万ヘクタールを国有林が占める。国有林のなかで人工林だけを抽出しても、222万ヘクタールだ。今回の改正案は伐採可能な人工林が対象となるが、林野庁は、当面は「1カ所あたり数百ヘクタール規模で、全国10カ所程度」と限定した。一気に国有林が伐採されることを防ぐためだ。

 官邸の圧力と、それに必至の抵抗をする官僚たち。森友・加計問題など、安倍政権下で繰り返されてきた霞が関の暗闘がここにもある。しかし、法案に一定の歯止めがかけられたからといって、楽観はできない。前出の上垣氏は言う。

「日本ではいま、再造林を担う人材が不足しています。皆伐した後に木を植えてもシカなどに食べられてしまう。国有林では、どれほど再造林されているのかも把握できていません。そもそも、林野庁は国有林事業の失敗で1兆円以上の負債を抱えていて、50年後も今のままの組織として存在しているかはわかりません」

 衆院農林水産委員会の審議では、共産党の田村貴昭議員が山林1ヘクタールあたりの平均販売価格が130万円であるのに対して、再造林と木の保育にかかる費用は220万円だと指摘した。1ヘクタールあたり90万円の赤字で、伐れば伐るほど国民負担は増える。また、国有林の山は急峻な山など林業をするには条件が不利な場所にあることも多く、「実際の販売価格はもっと安いはずだ」(林業関係者)という。前出の上垣氏は、さらに国民負担が増す可能性も指摘する。

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