子どもからお年寄りまで、あらゆる世代の患者さんがやってくる歯科医院。ありがたい半面、嫌な患者さんもいるのでは? これだけはしてほしくないことはあるの? テレビなどでおなじみの歯周病専門医、若林健史歯科医師に疑問をぶつけてみました。好評発売中の著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか? 聞くに聞けない歯医者のギモン40』からお届けします。
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診療をしていて、「嫌だなぁ」「困ったなぁ」と頭を抱えてしまう患者さん、確かにいますよ。
例えば思い込みの激しい患者さん。
「この痛みはむし歯」「たぶん、歯周病だと思う」
と、患者さん自身が診断をつけて来院するケースが近年、増えてきました。ネットなどであらかじめ調べていらっしゃるのでしょう。医療不信を抱く患者さんが増えていることもありますが、実際に診断をしてみて、患者さんの予想と違った場合、それを受け入れてもらえないと困ります。
60代の男性は、
「奥歯がズンズンと痛むんです。これはむし歯でしょう。早く治してください」
とやってきました。
慌てる様子の男性を制して、
「まずはむし歯かどうかも含めて、詳しく検査してみましょう」
と、X線を撮影したのですが、むし歯ではありませんでした。
詳しく調べたところ、痛みの原因は歯根膜炎とわかりました。歯根膜は歯の根と歯槽骨を結び付けているコラーゲン繊維。この膜に炎症が起こると噛むたびに痛みが起こります。 歯根膜炎はむし歯が神経におよぶ歯髄炎を経てその感染が根尖孔(歯根の先にある孔)を通じ、歯根膜周辺に広がることによるものと、歯周病などによる病巣が歯周ポケットから周囲の歯肉に広がって起こるものが一般的ですが、この男性はそうではなく、上下の噛み合わせが悪く、一方の歯に強い力が長年かかっていたことが原因でした。
むし歯もないので、歯を一部、削り、噛み合わせを整えてあげればよくなります。ところが……。むし歯だと思い込んでいる患者さんはなかなか納得できないようで、
「健康な歯を削るのは絶対に嫌です!」
と言い出す始末。そもそも、むし歯の場合も歯を削らなければならないのですが……。そう言いたいのをのみ込んで、何度も説明をしたところ、最終的には治療を受け入れてくれました。
治療にまったく協力的でない患者さんに出会ったこともあります。