ちょっと気になって「電人N」のバックナンバーを読み返してみると、この三週連続「先日?」で始まってました。
あまりの芸のなさに我ながらがっかりです。
そんなに「先日」好きか。そんなに振り返るのが好きか。そんなに後ろ向き人生か。
反省しながらも、とりあえず今回は先日の話の続きです。
原寸大ガンダム目指してゆりかもめに乗り込んだ僕と樋口真嗣(ひぐちしんじ)さんと今石洋之(いまいしひろゆき)さんの三バカロボ大将、窓から虹を見てすっかりご機嫌です。
「ところで、台場の駅からの道は知ってるんですか」
「ざっと見てきましたが、細かくは調べてません。なに、着けばなんとかなりますよ」
普段は地図など用意して目的地までしっかり確認する性格の自分なのですが、なぜか今回はアバウトな気分。樋口さんの質問にたいしても大ざっぱな答えです。まあ、でかいので行けばわかるだろうとは思っていたのですが、台場駅の改札口を出ると虚を突かれました。
対面のガラス窓に模造紙に大きく「←ガンダム・フジテレビ→」と書かれているではないですか。
左に行けばガンダム、右に行けばフジテレビ。なんとまあアバウトな二者択一。
フジテレビと互角の勝負か。随分と偉くなったものだなあ、連邦の白い奴。最初に放送された時は打ち切りだったのに、世が世ならばホリエモンに買収されるかもしれなかったぞ、RX-78。
もちろん我々が選ぶのはガンダムです。
公園に向かう道に出ると、すっかり雨は上がっていました。
海に向かう道を進むと、木々の切れ目からぬっと現れる白い頭。
いましたいました、我らがファースト・ガンダム、原寸大RX-78です。
正面ではなく背後から見えてくるのが残念と言えば残念ですが、やはりカッコいい。
しかも、しかもです。
東の空には大きな虹がかかっているではないですか。
虹とガンダム。
振り向けば、黒い雲の切れ目から夏の夕陽が空を赤く焦がす。
夕陽と虹とガンダム。
ああ、美しい。
来てよかった。見られてよかった。こんな光景、そうそう見られるもんじゃない。
雨の中、ガンダムのことそんなに好きじゃないしと思いながら樋口さん達を待っていた気持ちはすっかり忘れて、気分はもう「俺のガンダム、サイコー」です。
正面に回ると、改めてその大きさの絶妙さがわかります。
高さ18メートルなので、建築物として申請しないといけない。倒壊しないように建築基準法に則って作らなければならなかったという噂を聞いていました。
3階建てのビルくらいというので、もっと高いかなと想像していたら、そこまではありませんでした。
確かに大きいのですが、なんというか、このサイズならば人が乗って自分の身体感覚を投影して操縦できるかなと思えるギリギリの大きさなのですね。
これが全長100メートルを超えるイデオンとかガンバスターになると、いくら人間型とはいえ、巨大すぎて身体感覚はとても持てたもんじゃないだろうと想像できる。
このガンダム一体があることで、他の作品に出て来るスーパーロボットの実在感まで感じることが出来るのは、面白い感覚でした。
雲の流れが速く、夕陽の加減もあって、空は次々にその表情を変えていきます。開田裕治(かいだゆうじ)さんが描くイラストのような陰影に富んだ空を背景に台場に立つガンダムは、まさにプラモデルのパッケージアートのようです。
これこそ1/1ガンダムの世界。原寸大ジオラマです。
電車の中の騒ぎっぷりはどこへやら。もう、三バカロボ大将、何も言わずに見上げてはパシャパシャ写真を撮るばかり。
と、突然樋口さんが「ううむ」とうなりました。「よかった、今日来てよかった」と独りごちてます。
どうしたのかと尋ねると、すごいすごいと言いながらもそこはオタクオヤジ。「やっぱりモデルはカトキバージョンで、大河原版ではないのだな」(ガンダムのデザインを問題にしているのですが、説明すると長くなるので、マニアが蘊蓄(うんちく)語ってるとだけ理解していただければ・・・)などとどこか醒めた目で見ようとしているところに、後ろにいた小学生が「これにアムロが乗ってるんだね!」と弾んだ声で言ったとか。
その声の純粋さに胸打たれたようです。
「もう、この一言が聞けただけでも、今日来てよかった」
嬉しそうにうなずいています。
雨のせいか人も少なく、普段だと30分待ちしなければいけないガンダムの股くぐり(脚の間を通って下半身を覗けるのです。ファン以外は嬉しいかどうかはともかく、滅多に見られないものではあります)もスムースに行けて、しかもそのあとすぐに、時間指定で行われる、排気口からスモークを出して顔を動かすイベントも拝めて、結果大オーライでした。
ご機嫌な三人は、そのまま樋口さんお薦めの酒場で祝杯。
その店で作る地ビールもうまく、知人の実力派俳優(実は相当深いオタク)も駆けつけて、あわせてオヤジ四人で大盛り上がり。
もう脳がとろけて、何がおかしいんだかわからないが「スピルバーグに映画作法を教わるが、爆発のことしか頭にないマイケル・ベイの真似」とかしてた気がします。 翌日、全員が「何がおかしかったかよく覚えてないが、猛烈に楽しかった気分だけは覚えてる」と言ってたのが印象的でした。きっと、ゆりかもめに乗った辺りから脳内麻薬に酔ってたんでしょうね。
さて、この原稿がアップされる頃、僕と今石さんはスイスのロカルノ映画祭に行っています。
今年のロカルノ映画祭は、「マンガ・インパクト」という日本アニメの大々的なイベントを打つそうで、ガイナックス特集もされるとか。「グレンラガン」劇場用映画の上映もあり、僕らスタッフは招聘(しょうへい)されたのです。
まあ、無事に帰ってきたら、その辺の話でも。