ソロプロジェクト、T.M.Revolutionとして22年活動してきた西川貴教が、本名名義でのファーストアルバム『SINGularity(シンギュラリティ)』をリリースした。
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「いわゆる“屋号”ではなく本名で歌を届けたい――。デビュー15周年を迎えた2011年ごろから、漠然と思っていました。その想いが強くなったのは2017年です。8月に僕をずっと応援してくれていた母が亡くなり、親から貰った名前で自分を表現したい、親から貰った名前をもっと知ってほしい、という気持ちが抑えられなくなってきて。2018年に西川貴教としてシングルを2枚リリースし、今回初アルバムをレコーディングしました」
収録曲の多くは、西川の持ち味ともいえる激しくも美しいナンバー。そんな中で西川の声の魅力が今まで以上に際立つ曲がある。「awakening」だ。ピアノとストリングスで始まるバラード。悲しげで儚げな歌が、後半になるとオーケストラのように壮大に展開する。
「4分の3拍子で、ときにボレロのようで、ときにワルツのようなナンバーです。アンサンブルの中で言葉に気持ちを込めて届けたい。声をもっと聴いていただきたい。そんな想いが表れている作品の1つです。その背景には、2017年にクラシックの人たちとの音楽を始めたことが大きかったかもしれません。僕の出身地の滋賀の隣、京都市交響楽団の方々の演奏で歌うコンサートです。デビュー以来、僕はエレクトリック音楽を中心にやってきました。それとはまったく違うアプローチを体験させていただいています。指揮者の生きた手の動きや息づかいを感じて歌うことで、自分の歌唱が変わってきました。クラシックのコンサートにもマイクはありますが、ほぼありのままの自分の生声で歌わなくてはいけません。こうした体験を重ねることで、声が磨かれてきたと感じています」
音楽以外の分野の活動でも、西川の歌唱は変わった。
「テレビCMやNHK Eテレ『天才てれびくんYOU』のキャラクターや、舞台の体験によっても、歌唱が変わってきたと思います。歌は、歌詞とメロディだけではなく、コミュニケーションでもある。感情の昂ぶりによって会話が歌になる。だから、オペラが成立するわけです。それを、ヨーロッパのオペラの役者さんたちは、見事に表現しています。語るように歌い、歌うように語る。その表現を磨き上げたら、リスナーにもっと気持ちを伝えられると思っています。もちろん技術は大切です。その上で、もっと気持ちを込めることも強く意識しています」