2月22日の「#猫の日」にちなみ、AERA dot.では猫特集を敢行! かわいい猫に心和ませるのもいいが、この世界にはひどい環境で暮らす猫たちも多く存在している。猫の日こそ、猫たちの現実にも目を向けてみてほしい。今回は、タイの希少猫を守る日本人たちの活動を紹介する。
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美しいはずの白い毛並みは、すっかり汚れ果ててしまっていた。狭く錆びついたケージの中で、か細く鳴き声を上げる。ところどころ破れた屋根からは、南国の厳しい陽光が差し込む。あまりの暑さにぐったりとする、たくさんの猫たち
シャム猫に代表される、タイ原産猫の保護施設、通称「猫の家」は、ひどく老朽化していた。
そんな環境でも、なお気品を感じさせる猫の一匹を抱き上げ、愛おしそうに撫でているのは、プリチャーさんだ。齢80を数えるプリチャーさんは、バンコク郊外で長年「猫の家」を運営し、けんめいに維持してきた。祖父の代から75年。しかしもう、限界に近かった。
「タイに住んでいる猫好きの一人として、なにかできないかと思ったんです」
と話すのは、バンコクで猫カフェ&雑貨店「Chico」を営むチコさん。店は在住日本人や、猫好きのタイ人で賑わう。いまでこそタイにも猫カフェは増えたが、2004年のオープン当初は「Chico」くらい。珍しさからタイ・メディアの取材を受けたり、猫を40匹も飼っているほどの「猫派」で知られた元バンコク都知事が遊びに来たりもしたそうだ。
「私は日本のメディアのコーディネートもしているのですが、その取材で『猫の家』を知ったんです」
猫好き同士、チコさんとプリチャーさんの交流がはじまった。その中で、タイ原産猫の置かれた厳しい状況を聞かされるのだ。
500年前のアユタヤ王朝時代には、29種のタイ原産猫がいたらしい。そのうちの1種が、日本でもよく知られたシャム猫だ。しかしいま残っているのは、5種にすぎないという。その純粋な原種の遺伝子を残し、未来につないでいく……それが「猫の家」の使命だとプリチャーさんは言う。