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さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第70回は新疆ウイグル自治区のホータン駅から。
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入口や出口がいくつもある。それは大きな駅ならあたり前のことだ。日本の大都市の駅名では、待ち合せのとき、北口とか出口の番号を伝えたりする。しかしその入口や出口が民族で分けられていたら……。一般的な国では人権問題になる。
中国の新疆ウイグル自治区。カシュガルから列車に乗った。終点のホータンに着いたのは午前1時近かった。駅を出ようとしたのだが、そこに列車を降りた客の長い列があった。検問があることはすぐに察しがついた。
新疆ウイグル自治区では、ウイグル人過激派をとり締まる目的の検問が多い。最初は抵抗があったが、しだいに検問にも慣れてくる。市場、バスターミナル、駅……。人が多く集まる場所ではしばしば検問を待つ長い列ができる。
列はふたつあった。ひとつは長く、ひとつは短い。長い列についた。それも新疆ウイグル自治区で覚えたことだ。このエリアはもともとウイグル人が住民の大半を占めていた。そこに移り住む漢民族が増えている。その軋轢はしばしば暴動に発展する。そのなかから過激派が育っていくという構図である。検問はウイグル人と漢民族で分けられることが多い。外国人はウイグル人と同じように検問を受けなくてはならない。ウイグル人のチェックには時間がかかるから、どうしても列が長くなる。外国人の僕も、長い列につくことが習慣になってしまった。