海外では、家庭内の児童虐待の問題やDVの問題は“ファミリー・バイオレンス”とも呼ばれ、大きな社会的課題として認識され、各国はそれぞれの取り組みを行っている。虐待に対するとらえ方や対策は国の文化や宗教観によって様々だが、子どもと親の人格は別個のものだとして、子どもの権利が尊重されている。日本では子どもの権利よりも親の権利が重視され、“しつけという名の虐待”が未だに正当化されて堂々と行われている。
幸いBくんは、自分の気持ちを大人に伝える力のある子だった。そのため私達は、お父さんとはいっしょに暮らしたくないが、お母さんと一緒に暮らしたいという希望をかなえるにはどうしたらよいか、一緒に考えた。Bくんとは別に、A子さんの状況を改善するには何が必要かを一緒に考えた。BくんとA子さんは親子ではあるが、それぞれ立場が違うので、ニーズも違う。それぞれの話を、時間をかけてすり合わせていくことで、受けとめてもらえる実感や安心感が気持ちの安定や生きる力につながる。不信感を抱いていた関係者との信頼関係も再構築できるようになり、今は2人で静かに暮らしている。すぐにカッとなって他者に攻撃的になっていたA子さんは、今では顔つきも変わり、別人のように穏やかだ。
「もちろん今も親子ゲンカするし、カッとなることもしょっちゅうあります。でもそんなときには話を聴いてもらえる人が増えたんで、前のように気持ちが追いつめられることはもうないです」
一つひとつの相談に丁寧に対応するには、多くの時間と支援の輪が必要だ。児童相談所の専門職の人員増も最重要課題だが、児童相談所だけが抱える必要はないと思う。児童虐待とDVの関係機関の連携と同時に、行政と民間支援団体との連携が、虐待のない社会づくりの早道だと信じている。そしてみなさんが「しつけ」や「指導」という名の暴力を容認しないことも、引いてはDVや虐待防止につながる社会のうねりになると信じている。(文・吉祥眞佐緒)
吉祥眞佐緒(よしざき・まさお)/一般社団法人「エープラス」代表。DV被害を受けた女性たちの自助グループから、2006年に同団体を設立。電話相談や行政機関、警察、裁判所などへの同行、親子カウンセリングを通じてDV被害に悩む女性を自立までサポートする活動を続ける。関東を中心にデートDV防止プログラムや講演活動も