子ども中心の生活になってしまったことを夫に申し訳なく思い、「もう少し自分が努力すれば夫の気持ちも満たせるようになるかもしれない」と、夫のごきげんを取るような生活になっていった。どんなに頑張っても、夫はA子さんの努力を認めて労わってくれることはなく、それどころか暴力は日ごとにエスカレートしていった。
夫が求めるような家事と育児の両立はA子さんにはとても負担が大きく、
「家のことを完璧にできない自分は、仕事をする資格もない」
そう思い詰めるようになり、やりがいのある仕事を辞めて、家事と育児に専念した。しかし、仕事をやめたからといって夫からもらえる生活費は増えるわけではなかった。
「お前のしつけが悪い」
「家計のやりくりもできないなんてだらしない」
そういわれると、A子さんは何も言えなくなってしまった。何をやっても認めてもらえず、少しでも夫の気に障れば、容赦なく拳や物が飛んでくる。
「どうしたら夫に怒られないか」
そればかりが24時間ずっと頭の中を支配した。
しかし、A子さんがどんなにつらくても、殴られて身体が思うように動かなくても、小さなBくんにはA子さんの辛さがわかるはずもない。お腹が空けば騒ぐし、眠くなったらグズる。夫に殴られていても隣で何事もなかったかのように遊んでいるわが子に対して、いつしかA子さんは怒りを向けるようになった。
「この子さえいなければ……」
24時間止むことのない緊張感と恐怖感が、彼女の感情の矛先を歪めてしまったのだ。
当初、A子さんの相談の目的は離婚やDV被害の相談ではなく、Bくんを施設に預けたい、という趣旨のものだった。
報道によれば、心愛ちゃんの母親は女児が日常的に暴行を加えられていることを知りながら、黙認していた可能性があるという。また、母親は、事件後に知人に対して「仕方なかった」という内容のLINEを送っていたことも明らかになっている。どうして母親が虐待されている子どもを守らないのかと疑問に思う人もいるだろうが、それが難しいのが現実なのだ。