また、【図版2】に紹介した表の上段にある「参考値」が注目を浴びたのは、18年8月だ。同年6月の名目賃金が速報で3.6%(確報値は3.3%)と非常に高い伸びを記録したときだったが、実は、この「参考値」は18年1月の確報値(18年4月6日発表)から発表されていた。
そして、実質賃金の伸び率は公表されていなかったものの、おおよその数字は、前に説明したとおり、引き算だけで簡単にわかる。18年4月以降には、専門家の間では、こちらの数字の方が実態を表しているという指摘がなされていた。
そして、奇妙なことに、参考値の発表が始まった18年1月の確報値の記者発表は、例年なら3月下旬に発表されるのに、なぜか翌月の上旬まで発表が遅れた。基幹統計の発表が遅れるというのは極めて異例だ。おそらく、低い数字が出ることをどう説明するかについて、内部での調整に手間取ったからだと想像されるが、この遅れに疑問を呈した新聞はなかった。
ここまで来るともうおわかりだと思うが、今回、こんなに大騒ぎになっているのはどうしてかと言うと、実質賃金が増えているのか減っているのかというような、重要な事実について、マスコミが本来報じるべき事実を伝えていなかったために、アベノミクスで賃金が増えているという安倍政権による宣伝に国民が騙されていたことに一つの原因がある。上がっていると思っていた賃金が下がっていたというので、みんなが驚いているというのが実態ではないのだろうか。
もちろん、日本の国民の多くが、アベノミクスで賃金が上がったと錯覚していた最大の原因は、安倍政権が、統計的には意味のない様々な都合の良い数字をつまみ食いして宣伝したことにある。一種のフェイクニュースと言ってもよいだろう。
しかし、冷めた見方をすれば、政治において、政権与党が、自分たちの政治の成果を都合の良いデータを使って宣伝するのは古今東西ごく一般的なことである。
安倍政権のために厚労省が数字をいじっていたということになれば、大問題ではあるが、それでも、大枠では、元々実質賃金が下がっているという実態は隠しようがなかったはずだ。