◆スクラムを組み直して最終戦争に出る原子力ムラ

 民間では、電力会社の原発部門の統合や、メーカーの原発事業再編などの動きが活発化し、経産省が椀飯振る舞いの補助金を出してこれをサポートするというシナリオもありそうだ。現に、日立の東原敏昭社長は、業界の再編・統合について議論すべきだという考えを表明している。東京電力ホールディングスの小早川智明社長もこれに応えるように、建設中の東通原子力発電所(青森県東通村)について、原子力事業の再編統合に言及するとともに、日立の中西会長同様、国民的な議論が必要とも述べた。これらの動きを見ると、原子力ムラの民間企業がスクラムを組み直して、ついに、表に出て勝負しに来たように見える。

 そんな原子力ムラが頼るのは、経産省ではなく、安倍総理ということになりそうだ。

 というのは、世耕弘成経済産業相は、とにかく「口だけ、腰砕けの世耕」と言いたくなるくらい頼りにならない。昨年、朝日新聞のスクープ記事で、産業革新投資機構(JIC)の1億円超の高額役員報酬を批判されると、経産省は高額報酬の承認を撤回してしまった。その際、官僚に責任を押し付けて自分だけ逃げる世耕氏の姿は、民間企業経営者の脳裏にくっきりと焼き付いている。

 原発輸出に関しても、18日に、「原発事故を経験した日本の技術が世界に貢献できる可能性はある」などと頓珍漢な発言をして胸を張ったが、国の支援強化については、民間企業の判断だとして逃げてしまった。

 一方、安倍政権には、資源エネルギー庁次長として、福島の原発事故後、大飯原発再稼働などに剛腕を発揮した今井尚哉総理秘書官がいる。彼が経産省ににらみを利かしているうちに何とかして確固たる原発推進体制、すなわち、「どうやっても原発が儲かる仕組み作り」をして、それを不可逆的なものにしたい。

 それが、原子力ムラの真の狙いだ。

 追い詰められた原子力ムラは、核武装能力保持を狙う安倍政権と利権確保を目指す経産省が原発にこだわるのを見透かして、一体となって最終戦争に入る。

 それが、福島第一原発事故から8年を迎える2019年の現実だ。

 そして、その先には、五輪・パラリンピックで、「福島の事故は終わった」という宣言とともに、「原発が蘇る」年になる2020年が待っている。

 それを止めるのは誰なのか。私たち一人一人の意識と行動が問われている。

著者プロフィールを見る
古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

古賀茂明の記事一覧はこちら