この時の仕組みで重要なのは、太陽光発電だけ、異常に高い買い取り価格が設定されたことだ。どんな素人でも絶対に儲かる1kWhあたり42円というとんでもない価格での買い取りを保証したため、太陽光発電バブルが生じ、消費者負担が莫大になるとともに、後に過剰投資が問題となることとなった。今でも日本の再エネ発電コストが異常に高い一つの原因はこの時の価格設定にあったのだ。経産省や電力会社は、高い再エネコストは、後に原発維持にとって非常に強力な助っ人になるということを読んでいたのではないかという疑いもある。電力料金の領収書に「再エネ発電賦課金」という項目で金額を表示し、「再エネが高いので、あなたは○○円損しています」という趣旨の宣伝を全量買い取りと「同時に」始めている。今日の再エネ抑制策を正当化するための国民洗脳のツールをこの時から導入していたわけだ。

◆「原発は安い」から「原発は高いから無理」と豹変した原子力ムラ

 3・11から時間が経ち、脱原発の嵐もかなり静かになったのを見極めて、政府は、14年4月に、「エネルギー基本計画」を閣議決定し、原子力発電を「重要なベースロード電源」に指定した。日本の電力供給の要としての位置づけを正式に与えたのだ。その時の根拠の一つが、「原発は安い」ということだった。

 この閣議決定が発表されると間もなく、それまでひたすら頭を下げて目立たない姿勢をとっていた電力会社とメーカーは、とんでもないことを政府に言い始めた。「原発のコストをすべて負担して民間だけで原発事業をやるのはもう無理だ」というのだ。これは、「原発は高い」と言っているのと同じ。驚くべき豹変ぶりではないか。そして、政府にこういう要求を始めた。

「重要なベースロード電源である原発の維持は国策だ。我々は、それに無理して協力してやっている。だから、政府が責任を持って、原発維持の環境を整え、儲かるビジネスにすべきだ。法律や予算の整備はもちろん、政府が国民を説得し、輸出相手国政府などとも交渉するべきだ」と。

 政府、特に経産省も、彼らの言うことは極力実現しようと動いてきた。裏では、「何でも言うことは聞きます」という姿勢を示していたのだ。しかし、政府は、世論を気にして、「原発は民間の事業だ」という立場は崩さなかった。そのため、いろいろな支援策は出すものの、覚悟は定まらず、世論が厳しくなりそうだと思うと、さっと逃げてしまうという対応だった。

 これに対して、民間の方では、実質経産省の子会社となった東京電力を除く電力会社と日立などのメーカーは、徐々に自由にものを言うようになっていった。

 そういう背景を理解したうえで、中西会長の発言を見てみよう。

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中西氏の発言を見てみると…