老後生活に不安を抱く人は少なくないだろう。年金の支給額は減り、生活が苦しくなることが予想されるからだ。しかし、定年後の家計収支は、実際のところ、一般に考えられているより厳しくはなく、さほど悲観することはないという。経済コンサルタントの大江英樹氏の著書『定年前』(朝日新書)より、内容の一部を紹介する。

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■定年後は、現役並に稼ぐ必要は全くない

 私はいつも「老後が不安なのだったら老後を無くせばいい」と言っています。私は働くことを止めたところから老後が始まると定義しています。すなわち定年後も働き続けることができれば老後は無くなる、あるいは老後を短くすることができる、ということです。

 サラリーマンの場合は、定年後そんなに都合良く働けるところはないと考える人は多いと思います。しかし、現役並みに稼ぐ必要は全くないのです。

 具体的な数字を言うと、毎月8万円程度の収入を得ることができればいいのです。現役時代は働いて会社からもらう給料が生活の糧ですから、8万円ではとても生活していくことはできません。

 ところがリタイア後の生活を支える主な手段は公的年金です。働いて稼ぐお金はその年金を補てんするに過ぎないと考えればいいのです。

 では、8万円という数字の根拠は何か。以下に述べていきます。

 総務省の2017年「家計調査報告」によれば、高齢夫婦無職世帯(高齢夫婦とは夫65歳以上、妻60歳以上を言います)の家計収支は、収入の月平均額が20万9198円、支出の月平均額は26万3717円となっています。およそ5万4千円の赤字です。

 上記は無職世帯のケースなので収入のほとんどは年金収入です。これに加えて旅行に出かけることも考慮して、あと2万円ぐらいを毎月の支出に上乗せし少し余裕を持たせていけば、それなりに充実した生活はできるでしょう。つまり年金収入以外に毎月8万円ぐらい働いて稼ぐことができれば大丈夫なのです。

 毎月8万円ですから、年間にすると100万円弱です。もし定年後もまったく働かなかった場合は、退職金や自分の蓄えの中からこの100万円を取り崩していかなければなりません。その期間が60?90歳まで30年間だと合計3000万円のお金を持っていないといけません。でも何らかの形で働いて収入を得るのであれば、60歳時点でそれほど蓄えがなくても生活していくことは可能です。

■一人4万円、夫婦なら8万円稼げればOK

 このように定年後も働き続けるとしたら、その収入金額の目安が8万円なのです。しかも夫婦であれば、二人でこれだけ稼げばいいのです。一人当たり4万円です。これぐらいの金額であれば、決して稼げないわけではないと思います。

 また現役時代には毎日ランチや喫茶店で1日1000円ぐらいのお金は使っていたかもしれません。毎日出かけることがなくなれば、月に2万円程度は減ります。こうして考えていくと、それほど高い収入を期待しなくても働いて月に数万円程度の収入を得ることはさほど難しくないし、それによって老後の暮らしはぐっと安定してくるのです。

<プロフィール>
大江英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト。専門分野はシニア層のライフプランニング、資産運用及び確定拠出年金、行動経済学等。大手証券会社で定年まで勤務した後に独立。書籍やコラム執筆のかたわら、全国で年間130回を超える講演をこなす。