■マスが見たかったのはライトなストーリー
このようにじっくり作品を見ていればいるほどに驚きのギミックが散りばめられた作品だったが、視聴率が伴わなかったのは残念だ。
「全体的に内容がリアル過ぎたのが、ちょっと今の視聴者に合わなかったのかもしれません。今の視聴者は、フィクションの世界で現実を感じたくないと思っているような気がします。主人公が壁にぶつかって悩み、努力して、そしてその壁を乗り越えてカタルシスを得るというドラマツルギーが好まれる。もっと軽やかに主人公が動くような、ライトなストーリーをマスは求めているのではとも思いましたね。『けもなれ』は、難しくてリアリティーのある設定を盛り込んだ良作だったと思いますが、ちょっと“偏差値”が高いドラマだったって事だと思います。オリジナル脚本で作られるドラマはほぼないですし、志が高い作品だった。失敗とは捉えないでほしいという思いはあります」(民放ドラマディレクター)
ドラマウォッチャーの中村裕一氏は脚本を担当した野木氏についてこう語る。
「以前、雑誌で野木さんにインタビューした際、『脚本にはロジックが必要』『どれだけ客観的になれるか』と語っていたのが非常に印象的でした。今回の作品では、自分が書きたいことと視聴率とのはざまでかなり苦労があったかもしれませんが、ストーリー序盤の『鐘』の伏線を最終話で回収するあたりはさすがだと思います。また、ガッキー演じる晶が田中圭演じる元カレ・京谷とよりを戻すような安易な展開に陥らなかったのも良かった。タイトルの『獣』というフレーズが意味したもの、ラストシーンで『鐘』は鳴っていたのか否かなど、放送が終わった後も視聴者を惹きつけているのは野木さんの脚本だからこそ。近年では、放送が打ち切りになった海外ドラマがファンの熱烈なラブコールによってネット配信で復活する例もあり、『けもなれ』もぜひ、そのようになることをひそかに期待しています」
残念ながら、マスが見たかったのはわかりやすくカタルシスがあって、ガッキーがちゃんとかわいらしく見られるドラマだったということだろうか……。とはいえ、その挑戦は多くの視聴者の記憶に残るものになったに違いない。今後ますます期待される野木亜紀子氏の脚本、次回作も楽しみにしたいところだ。(ライター・今市新之助)