ここで、もう一つ疑問が生じる。あの記者会見で、何故、日産社長の責任を問う声があまりなかったのかということだ。多くの報道陣が集まっているのに、誰が知っていたのかは答えられないと言われると、そのまま引き下がってしまう記者ばかりだった。「あなたは知っていたはずだ。少なくとも知り得る立場にあったではないか」としつこく食い下がって、追及する姿勢を見せても良かったのではないだろうか。

 しかし、実は、それは、今の日本のマスコミには期待できないことだ。

 日産は、大手メディアにとっては、非常に大きなスポンサーだ。特にテレビ局には大きな影響力がある。また、取材している記者の多くは経済部で、普段から社長には頭が上がらない。これからの取材で情報を出してもらいたいという思いもある。つまり、日産批判は書きにくいのだ。彼らにとっては、ゴーン氏の悪事が出てくれば非常に好都合。それで世論がゴーン・バッシングに動けば、日産批判をしなくても視聴者や読者からの批判を心配しなくて済む。

 マスコミのこうした裏事情を頭に置いて報道を見ないと、ついつい、ゴーン批判だけに目が行ってしまうので要注意だ。

◆日産独立は禁断の木の実

 自動車産業は今、大変な激動期にある。EV(電気自動車)、自動運転、AI、シェアリングエコノミーの発展で、自動車メーカーがただの下請けになる時代が来る可能性が高い。その中で、日産と三菱自動車はルノーと組むことで、VW(フォルクスワーゲン)、トヨタと並ぶ1000万台クラブの一角を占めることに成功した。

 しかし、日産もルノーも経営は順調とは言えない。日産のドル箱はアメリカ市場と中国市場だが、いずれにおいても苦戦中だ。ルノーも利益の半分は、日産に頼っている。

 ゴーン氏追放後、この大激動期に、国境と業種を超えた合従連衡でサバイバル競争を勝ち抜くことができる経営者がいるのか。誰もが不安に思う。
 日産とルノーとの関係も非常に難しい。

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菅官房長官の関与は?