ある意味、外資的な会社となった日産の経営陣がゴーン氏の表面的な報酬が年間10億円程度だという事実に対し、「グローバルな水準では安いが日本ではこれ以上引き上げられない。別の形で役員報酬を支払う術はないのか」とゴーン氏と一緒に考え、行動した可能性はなかろうか。
今回の事件の発覚で強く憤るのは日産の株主であり、社員であり、顧客である。経営者ならば憤るのではなく、まず自らの不明を恥ずべきだったのだ。今回の内部調査で「重大な不正行為」を見つけ出し、かろうじて自浄作用は働いたが、それは経営者としては当然の行為であり、「クーデター」と言うほどの行為ではない。
おそらく今後、日産は法人としても刑事責任を取らざるを得ないだろう。もしもそうなれば、ゴーン氏ばかりか現在の経営陣が現在の地位に留まれないのは当然である。
今回の事件はゴーン氏が解任されれば終わりではない。その後の経営体制がどう整うのかが鍵だが、先行きの不透明感は募るばかりだ。ルノーの取締役会は20日、ゴーン氏の解任を先送りし、フィリップ・ラガイエット独立取締役を暫定会長に、ナンバー2のティエリー・ボロレCOOを暫定副CEOに据え、事態の推移を見守る姿勢を見せた。今回の不正は、ゴーン氏と側近のケリー氏が引き起こしたものなのか、会社の経営組織が問題を引き起こしたものなのかという不正の本質を見極めなければならないと考えたに違いない。
西川社長は今後の経営体制について3人の独立取締役らの意見を踏まえて決定するという考えを19日の会見では示した。日産の独立取締役はルノー出身のジャンバプティステ・ドゥザン氏とレーサーの井原慶子氏、経済産業省OBの豊田正和氏である。日本人の井原氏と豊田氏は社外取締役の経験はあるが、企業経営の執行経験はない。豊田氏は元経産審議官で、1995年の日米自動車協議やWTOなどでの多国間交渉で活躍した通商交渉でのタフネゴシエーターである。その交渉経験が今回の再建チームづくりに生かされるかは未知数だ。またレーサーの井原氏がどのような力を発揮できるかもわからない。
日産の臨時取締役会は22日に開かれる。そこでゴーン氏の会長職と代表権の解任が決定するだろうが、それだけで終わっては、日産の再生の道のりはなお遠いままである。(Gemba Lab代表 安井孝之)