「絶対権力は絶対に腐敗する」と言われる。ゴーン氏も、過去に独裁者、カリスマ経営者といわれ、晩年には失脚していった多くの人たちの轍を踏んだ。そう考えると人間の持つ本質的な弱さや、人は死ぬまで良くも悪くも変わっていく、という真実を改めてかみしめざるを得ない。
さて19日の夜の西川社長の発言である。人は死ぬまで変わり得るのだから、ゴーン氏の側近の一人として社長にまで引き上げられた西川氏がゴーン氏について「残念という言葉を超えて強い憤りがあり、非常に落胆した」と語り、ゴーン氏を突き放したとしても何の不思議もない。メディアの中には「クーデター」という言葉で西川氏の豹変を表現するところもある。
人が過去の行動を反省し、より良き方向に変わっていくことは好ましい。だが西川社長の発言ぶりを見ていて、私は少し違和感を持った。
今回の直接的な逮捕の容疑となっているのは有価証券報告書の虚偽記載である。上場企業の監査経験が豊富な公認会計士の一人も西川社長の「強い憤り」という言葉に「おかしい」と思ったという。
有価証券報告書をまとめる作業は、人事、総務、経理などの担当者らがお互いに情報を共有しながらデータを点検し、書き上げる作業だという。役員報酬の記述も少数の人たちだけが担うわけではない。「私の監査の経験に基づけば、今回の虚偽記載は組織ぐるみの犯罪です。会社のガバナンスの問題点がまず指摘されなければならない。問題点を見過ごした監査法人にも責任があります」と公認会計士は指摘する。
一部の報道によると複数の執行役員ら幹部が司法取引をし、捜査に協力しているようだ。複数の幹部が違法行為に少なくとも5年は関わっていたとして、その事実を代表取締役の西川社長ら経営幹部が知らなかったとすれば、日産のガバナンス体制は相当な不備があったことになる。あるいはその事実を知っていたとしても「ゴーン氏の指示だから仕方がない」と黙認していたならば、会社法で経営者に義務づけられている「忠実義務」(会社の利益に対し忠実に行動すること)と「善管注意義務」(一定の注意を払って職務に当たること)を守っていなかったことになる。