日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「風邪」と「薬」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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朝晩の冷え込みが厳しくなってきた今日この頃。風邪症状を訴えて受診される方が多くなってきました。
「風邪を治す薬をください」
外来でよく耳にする言葉です。しかしながら、風邪を治してくれる特効薬はありません。では、風邪をひいたらどうすればいいのでしょうか。今回は、風邪にまつわるお話をしたいと思います。
俗に言う風邪は、「かぜ症候群」と定義されています。鼻から咽頭、気管、気管支、肺に至る上気道の急性の炎症による症状を呈する疾患です。咳や咽頭痛、鼻汁や鼻づまり、発熱、倦怠感、頭痛や筋肉痛などを引き起こします。あらゆる年齢層に発症する疾患であり、米ミシガン大学のMonto医師は、就学前の子どもは年に5~7回、成人は年に2~3回の頻度で風邪を発症すると報告しています。
風邪の原因の80~90%はウイルス性です。ライノウイルスやコロナウイルス、RSウイルスやパラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどが主な原因ウイルスです。ウイルスに効果のある特効薬は、残念ながら存在しません。安静にし、水分や栄養補給を行う「対症療法」が治療となるのです。
ウイルス以外にも、細菌や肺炎マイコプラズマなども原因となる場合や、ウイルス感染についで二次性の細菌感染を引き起こし、肺炎に至るケースもあります。その際は、原因が細菌であるために、治療には抗菌薬が必要になります。しかしながら、大部分が、ウイルス性の風邪。ウイルス性には抗菌薬は必要ありません。
それにもかかわらず、ウイルス性の風邪と診断しつつも、患者さんが抗菌薬を希望されたら抗菌薬を処方している現状があるのです。
そもそも「抗菌薬」とは、細菌の増殖を抑えたり殺したりする働きをする薬のこと。「抗生物質」という言葉の方が聞き慣れている方も多いかもしれませんが、厳密には異なります。細菌の増殖を抑制したり、殺す薬が抗菌薬であり、この抗菌薬のうち細菌や真菌といった生き物から作られるものを、特に抗生物質といいます。同じ意味で使用されてしまっていることは臨床現場においても多々ありますが、厳密には異なるものを意味します。