数学は87%、IQは66%、収入は59%が遺伝の影響! 驚きの最新研究結果とは

AERA
遺伝と環境が様々な形質に与える影響(AERA 2019年7月29日号より)
遺伝が収入に与える影響は年代で変わる(AERA 2019年7月29日号より)

 IQは66%が、スポーツや記憶力も8割超が遺伝で決まる。そんな調査結果がある。ただ現代の科学は、あなたに眠る全ての才能を測れるわけではない。

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 能力、性格といった様々な形質は、親から受け継いだ「遺伝要因」と、生活や教育といった「環境要因」の両方の影響で決まる。気になるのは、遺伝と環境がどのぐらいの比率で影響するのか、だ。

「音楽の才能は92%、スポーツの才能は85%、成人期初期の知能指数(IQ)も66%が遺伝の影響と言えます」

 そう語るのは、慶応大学文学部教授(教育学)で、ふたご行動発達研究センター長の安藤寿康さんだ。

 安藤教授が、自身の調査結果や欧米などの研究結果をまとめ、分析したところ、指紋は98%が遺伝の影響。環境要因で変わる2%が、ATMやスマホがふたごを見分けるカギになるようだ。身長や体重が9割以上遺伝の影響というのも、さほど違和感はない。

 音楽(92%)、スポーツ(85%)あたりは、まぁ納得か。バッハの一族からは50人を超える音楽家が輩出し、16世紀半ばから約200年にわたって栄えた。陸上ハンマー投げの室伏広治さん一家、宮里藍さんらゴルフの宮里ファミリー、故・山本KID徳郁さんらレスリングの山本ファミリーなども分かりやすい事例だろう。

 数学の87%には、思わずため息が出る。学業成績は全般に遺伝の影響が大きく、9歳時点で算数は72%、国(英)語が67%、理科が63%となった。

 落ちこぼれの高校生が一念発起、慶応大学に合格した「ビリギャル」のサクセスストーリーは世の受験生を勇気づけた。だが安藤教授は「今の教育制度の中で『誰もが頑張れば東大に行ける』とか『ビリギャルのようなことが誰にも起きる可能性がある』とか言うことは、欺瞞にすぎない」と指摘する。

 IQは、児童期(41%)よりも成人期初期(66%)と年齢が上がるにつれ遺伝の影響が大きくなり、その後はほぼ横ばい傾向だという。これは、子どものときのほうが知能に関して刺激的であるかどうかといった、家庭環境の差による影響を受けやすいためだという。安藤教授はこう説明する。

「子どものころは親の影響を受けやすく、大人になると自分自身の遺伝的な素質に合った環境を自分で選び、遺伝的な素質が増幅される傾向がある」

 性格も一定程度は遺伝の影響を受けるようだ。勤勉性と開拓性は52%。神経質と外向性は46%が遺伝の影響。反社会性は男性で63%、女性で61%が遺伝の影響。マリフアナへの依存も61%と高かった。

 能力や性格に遺伝が影響しているなら、それらが発揮された結果とも言える収入には、どの程度遺伝の影響が表れるのだろうか。

 名古屋大学大学院の山形伸二准教授、慶応大学の中室牧子教授らが、2013年に日本人の双生児約1千人を対象に調査したデータは、20~60歳の男性について、収入に対する遺伝の影響が、年齢でどう変化するかを示している。

 山形准教授によると、遺伝の影響は20歳で22.7%。その後、30歳で38.2%、40歳で56.5%と右肩上がりで、ピークを迎える43歳で58.7%まで高まった。その後影響は落ち始め、50歳では52.3%だった。

 若い頃似ていた双子も、年を追うごとに重ねた年輪の違いが際立ってくるもの。それならば稼ぎだって、遺伝の影響は年を重ねるに従って減っていくのではないか──。そんなイメージを見事に打ち破るデータだ。一体なぜなのか。山形准教授はこう解説する。

「新卒一括採用を思い浮かべればわかるように、若い時期には遺伝的個人差は限定的にしか収入に反映されない。それに対し、30代、40代となるほど遺伝的個人差が職能として発揮されやすく、それに応じた収入のばらつきも大きくなる」

 あえて下世話な言い方をすれば、若いうちは能力が低い学生でも、様々なコネや周囲の助言で高い初任給を得る職業に就くことがしばしば起こりうる。就職活動が運不運に左右されることもある。

 だがキャリアが長くなるにつれて、様々な選択や試練をくぐりぬけるたびに本来の実力が問われ、遺伝の影響力が増していく。そんな可能性を示唆していると言えそうだ。

 ただ、ここまで読み進めてきて「なるほど、カエルの子はカエルか」と考えるのは早合点だ。これらの数字はあくまで「1人の人間の中で遺伝と環境がどのぐらいの比率で影響しているか」の目安にすぎない。遺伝には様々なパターンがあり、必ず父や母の影響を強く受けるわけではないし、両親だけから影響を受けるわけでもない。両親の一方が無鉄砲だから、子も「親譲りの無鉄砲で……」という話ではないのだ。(編集部・小田健司)

AERA 2019年7月29日号より抜粋