毎朝校門に立ち「今日はいつもより早く来たね」「時間通りに来ると、いいことがあるよ」と声をかけていると、だんだん遅刻が減ってきた。生徒たちの励みになればと、欠席・遅刻・早退のない生徒に、1カ月ごとに、月間皆勤賞を渡すことを思いついた。

「賞といっても、校長室で手作りした賞状ですよ。だからあまりうれしくないかなと思ったら、それを集め出す生徒が増えてきたんです。俺は何枚たまった、と自慢げに言いに来る生徒もいました」

 着任当初「そこは校長の席ではない」と言い放った古株の先生は、そのうち栗原先生と一緒に校門に立ち、2人で向かい合って生徒を出迎えた。授業を抜け出す生徒を見つけると「授業を大事にするって約束したでしょう」と、連れ戻した。

◇ ◇

 校長室の扉はいつも開け放してあり、ときどき生徒がおしゃべりをしに訪れるようになった。ある日、腰にじゃらじゃらとチェーンを下げた生徒が校長室をのぞき込んでいる。「おいで」と校長室に呼んで、だらしなく緩めているネクタイを結び直した。「ほら、こっちのほうがかっこいいよ」と言うと、照れくさそうな顔をする。

「悪ぶっていたり粋がっていたりする生徒たちも、あどけない一面がある。家庭環境や周囲の環境など、生徒だけの問題ではないのです」

 経済的な事情を抱えていたり、そもそも親が子どもの教育に無関心だったりする家庭も多かった。

 生徒自身は卒業の単位を取得しているのに、授業料が振り込まれず、卒業が危うい生徒がいた。何度保護者に電話してもらちがあかず、栗原先生が出向いて父親に直談判することになった。ファミリーレストランで数時間にわたり説得した末、「あんたには負けたよ」と、誓約書へサインすることに同意させた。

 卒業式の日。壇上で祝辞を述べていると、体育館の入り口に仁王立ちしている男性の姿を見つけた。卒業式への誘いを「そんなところへ行けるか」と一蹴していた、あの父親だ。式が終了した後、「確かに授業料を受け取りましたよ」と声をかけると、「なかなかいい式辞だった」と、笑顔を見せてくれた。

 1年が終わるころに中退率は半減し、中退防止プロジェクトは結果を出しつつあった。

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