主体的ではなく勉強をやらされている場合

矢萩:もしお子さんが早生まれじゃなかったとしたら、はたして本当に手や口を出さなかったかを自問してみてほしいですね。完璧な状態なんて考えられませんから、結局自分の不安が発露してしまうんじゃないかと思います。

矢萩邦彦さん

安浪:勉強面よりも、まずは4年生だったら生活面での自立を少しずつ促してあげることも大事ですよね。脱いだパジャマをそのへんに置いておかず洗濯かごに持っていくとか。

矢萩:確かに。あとは社会的な調整力も大事。言いたいことをなんでも言うのではなく時と場所を考えて我慢をするとか、立ち歩かずにじっと話を聞くとか、あるいは友達と喧嘩をした時にどう仲直りをするとか。そういうこともまだ子どもだからできないこともあるよね、と思いながらも見守ったり、ちょっと手助けしたりしてあげながら自立を促していくことも大切だと思います。

安浪:あとは中学受験から逆算して考えると、幼さが残る部分をどうにかしたいと思うかもしれないけど、子どもってあっという間に成長するから、今の幼さを存分に楽しんだらいいんじゃないかなって思います。親が心配しなくても勝手に幼さはなくなってきますから。

矢萩:確かに。あと僕が個人的に感じているのは、早生まれであるかないかに関わらず、主体的ではなく勉強をやらされている場合、算数の途中式を全然書かない傾向が強い気がするんです。要は問題の答えを書くのはわかるけれど、何で途中式を書かなきゃいけないのかっていうことがピンとこない。問題と答えの間のプロセスの部分に焦点を当てて行動することがすごく弱いなって感じるんです。まあ、これは子どもの発達に関係なく、大人でもそういう傾向の人も多いですけどね。

安浪:やらされている勉強は、いちはやく終わらせたいという気持ちもあるからでしょうね。でもそれに限らず、プロセスを飛ばして答えだけを求めたがる人はいますよね。世の中的な風潮というか、SiriもチャットGPTもすぐに答えを教えてくれますし。でも、中学受験云々に限らず、自分の頭で考え、その過程を他の人が見てもわかるように書き表す、というのはとても大切です。だって、それはコミュニケーションの一つじゃないですか。早生まれだからと焦ると、どうしても勉強にもコスパを求めたくなるかもしれませんが、そのような勉強法だけには絶対に陥らないでほしいと思います。

(構成/教育エディター・江口祐子)

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安浪京子
中学受験専門カウンセラー/算数教育家 安浪京子

やすなみ・きょうこ/「きょうこ先生」として親しまれている中学受験専門カウンセラー、算数教育家。佐藤亮子さんとの共著『親がやるべき受験サポート』(朝日新聞出版)が好評。最新刊は『中学受験 大逆転の志望校選びと過去問対策 令和最新版』(ダイヤモンド社)。オンラインサイト「中学受験カフェ」主宰。

矢萩邦彦
中学受験塾塾長 矢萩邦彦

やはぎ・くにひこ/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

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