前田:駄菓子屋のおばさんには、商品経済のしくみを教えてもらいましたよ。あなたにお給料を出すには、それ以上に売り上げを出さないといけないでしょ、そんなに売れてると思う?って。確かに僕にお金をまわすには、1個100円のうまい棒を1日100個売ったとしても、そこから仕入れ代引いてそれで……って思ったら、とても僕を雇う余裕なんてないことがよくわかりました。当たり前の事なんですが、お給料は突然湧いて出てくるものではないと学びました。
高濱:まさに体験学習。しかもシビア。
前田:コンビニでは、僕は小学生で半人前の仕事しかできないから時給も半分でいいですって頼んでみましたけど、小学生は雇えないって。八方ふさがりです。でもお腹は空く。そんなとき、親戚のお兄ちゃんからアコースティックギターをもらったんです。そうだ、大好きな歌でお金をもらうというのはどうだろうってひらめいて。雇ってもらえないなら、自分で稼げばいいんじゃんって。それからギターも歌も一生懸命練習して、路上に立って歌いました。
高濱:すごいよね、その発想。それで稼げたことも、さらにすごい。
前田:もちろん最初は誰も立ち止まってくれませんでしたよ。だからなぜだろう、どうすればいいだろうって必死で考えました。まず披露する歌を、誰もが知っている往年の歌謡曲に変えました。松田聖子やテレサ・テン、吉幾三から南こうせつまで、有名な曲を少しずつ覚えて。すると、なんで小学生が知ってるの?と興味を持ってくれる、立ち止まってくれる、リクエストしてくれる……と反応が如実に変わっていった。ある日、僕の「赤いスイトピー」を聞いたお客さんが「白いパラソル」をリクエストしてくれました。僕は「今は歌えないけど、来週また来てください」と答えたんです。そして一生懸命練習して、1週間後に心をこめてその人のために歌いました。するとその人が、ギターケースに1万円を入れてくれたんです。
高濱:うーん……ちょっと泣きそうなんだけど。
前田:1万円は、僕が1週間ですごく上達したからではなく、歌を通して僕と彼女の間に双方向の物語が生まれた結果の対価です。あのうれしさや達成感が、僕の今のビジネスの原点なんです。
高濱:賢い小学生だなあ。
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