前田:でもその前はすごく心が荒れてましたよ。大好きだったおかあさんが突然いなくなって、もう生きる意味なんてないと思ってた。しかも僕は、がっくり静かにうなだれるというよりも、もっと負のエネルギーをギラギラとまき散らすタイプで(笑)。8歳から12歳までずっとそんな感じで、地元のやんちゃな人たちと一緒に過ごしたりもしました。
高濱:小学生で? よく仲間に入れてくれたね。それって、ある意味愛されキャラなんじゃない。
前田:やんちゃと言っても、彼らも何かしら負の要素を抱えていたりする人も多かったから、似た状況の人間にすごくやさしかったりするんです。ある時はワルぶるけど、ある時は“幸せとはなんだ!”みたいなことを話し合ってみたり。
高濱:なるほどね。むしろそういう集団と触れ合ったことで、逆境にいた前田さんの感性が、悪い形でゆがまずに育ったところもあるのかな……。具体的にはどうやって方向転換できたんですか?
前田:兄のおかげです。兄と僕は10歳違いで、僕の名づけ親でもあるんです。物心ついた頃の僕の記憶を映像で思い出すと、いつも兄といっしょに遊んでいます。兄も僕も新しい遊びを思いつくのが得意で、公園で夢中になって遊びました。でも今考えてみると、10歳違いの弟とずっと遊んでくれるってすごいじゃないですか。カラオケで兄弟デュオの定番、狩人の「あずさ2号」を本気で歌いこんでみたり……。そして母が亡くなった後、兄は医師になるという大きな夢を諦めて、就職して僕を養ってくれたんです。
高濱:お兄さんが親代わりになった。
前田:世の中に「無償の愛」というのが存在するなら、それは兄のことです。そんな兄が、ある日、やんちゃばかりする僕の前で、初めて号泣しながら怒ったんですよ。あれがきっかけでした。世の中で一番大好きな兄を悲しませたくない、喜ばせたい。強くそう思いました。同時に、自分ではコントロールできない逆境や運命なんかに負けたくない、人は後天的な努力によって、自分ではどうすることもできない状況やハンディキャップをちゃんと乗り越えられる、それを自分で証明してやると思ったんです。この2つのモチベーションで僕はやってきました。
高濱:そして、努力はみごと報われた。
前田:少しずつですが、報われてきているのかもしれません。努力とは、見極めてやりきる事。つまり、解決に最も繋がりそうな方法群を徹底的に考え抜いて、それらをできるだけ早く実行に移すわけですが、没頭すると、気づいたらごはん食べないまま1日が経っていた……なんてこともよくありました。こうした異常な集中癖も、根っこにあるブレないモチベーションが大きく作用していると思います。
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