前田:熱だけ強くても、人はまきこめない。そもそも何者でもない身だと、誰も耳を貸してくれないことは、自分が一番よく知っています。だから僕は、学生の頃から自己分析や起業プランなどを何冊もノートに書いて、周囲を巻き込むための技術を勉強していました。高校時代に没頭していた英語ディベート活動の中でも、相手を説得する方法を身につけることができたと思います。

高濱:ひとつ聞きたいんだけど、成長過程で躓きや逆境に合うと、そこで負けてしまう人と、前田さんのようにそうでない人がいるでしょ。その違いはなんだと思いますか。

前田:ああ、それはよく聞かれるんですよ。なんだろうなあ……一言で言うと、「受けた愛情の総量」でしょうか。僕の場合は、母と兄による圧倒的な愛情注入と、それを起点とする圧倒的な愛の連鎖があったから、立ち直れたんだと思いますね……。

高濱:幼い時期に享受した濃く熱い愛情で、その直後の厳しい不遇も乗り切ることができたということですか。でも、それだけではない、本人の強さというのも感じるけれど?

前田:他に何かあるとするなら、「仮想敵」の存在だと思います。常に自分の中での仮想ライバルを作ることで、自らを奮起させていた。例えば小学生のとき、恵まれた人、塾に行ける人がすごく羨ましかった。この人は塾に行ってるから僕の知らないことを知ってるだけで、僕より努力したわけではないかもしれない。絶対に負けたくない。ならばどうする……みたいな課題意識をたててクリアしていくわけです。僕は塾に行けないかわりに、学校の図書室や地域の図書館でたくさん本を読んだんですが、その過程で得た気付きの中に、「“事実”は事実であるから、それ以上動かせない。けれど、“真実”というものは実はひとつではなく、主観次第で如何ようにも変わる」がありました。ならば、人生の真実の在り処についても、自分の主観次第、切り取り方次第なのではないか……と。

高濱:前田さんのように、マイナスを自らの力でプラスに切り開いてきた人間ならではの言葉ですね。逆に、普通に塾に行けるような子どもが聞いたら落ち込んでしまうかも(笑)。自分にはそんなバネにする特別な事情がないって。

前田:もし僕が普通の環境にいたなら、僕みたいな人間を仮想敵にすると思います。「逆境という特別が偉いわけではないぞ」って。普通の人間がどう追い越せるのかを必死に考えるでしょう。結局、今置かれた状況の解釈次第、で全てが変わると思います。

(構成/ライター・篠原麻子)

AERA with Kids (アエラ ウィズ キッズ) 2018年 冬号 [雑誌]

AERA with Kids (アエラ ウィズ キッズ) 2018年 冬号 [雑誌]
著者 開く閉じる
篠原麻子
篠原麻子
3 4 5